第10話 新たな旅立ち・背後に潜む敵
「思い出したぁッ!」
突然忍が大声を上げたので、全員が肩を跳ねらせて驚いた。
「うっせぇんだよテメェ!静かに思い出せやッ!」
「あれや!悪い異能者を倒してくれ、そしてその先にある真の悪をお前が倒しアドニスに平和をもたらせ。誰よりも、他の奴らよりも早く。そう言ってたで!」
場が凍り付いているのに忍が気づいたのは、言葉を発した数秒後だった。妙な間に居心地の悪さを感じて皆の顔色を伺っていて、ようやく気付いたようでぽんと手を叩く。
「てーことは、俺はなんか悪い異能者と別の奴を倒さなあかんっちゅうわけやな」
「・・忍、それマジか?」
「んぁ?マジやけど?俺なんか変なこと言ったか?」
「・・・出来れば、キミたちには王都アンシャンテに来て欲しくなったな」
落ちた兜を拾った井上は、兜を被って茜たちの前に立ち塞がった。彼女から放たれる圧に、茜たちは身の危険を感じて一歩後ずさる。
「これは他言無用、白獅子隊と国王と側近しか知らない事だ。教団が勢力を拡大し、王都に対して襲撃を仕掛ける動きがある。内部に潜入しているスパイからの情報で、奴らの動向を調べる限り確かなことだ」
ふわりと、井上の白い衣服が浮く。白獅子隊に与えらえた制服が陽の光に当たって煌めく。
「国では現在、アドニス復興隊に声を掛けて王都に集めている。それと合わせて我らの軍備拡張のために白獅子隊入隊試験も開催している。茜がダメでも、他の仲間たちなら―」
「俺は茜と行く。止めんなら勝手に止めぇや」
「このろくでもない連中を野に放つのは、年長者としてどうかと思ってな」
「街のお手伝いしながら、冒険者さんたちの楽しそうな顔をずっと見てて。私もいつか仲間たちと冒険したいなって思ってたのに・・・」
「なーに言ってんだ陽菜。そのために、今からコイツぶっ倒すんだろうがッ!」
「と思ったが、止めておこう」
すんっと浮いた衣服が戻り、茜たちは一斉に前に倒れた。
「いやね?ボクと一緒に来た仲間と合流しなきゃだし、任務はデネブの街を覆った白炎の正体を探る事だから。そこまでは・・しなくていいっかなって。お腹空いたし」
「じゃあ変なことすんなッ!またケーフィ出すかと思ったじゃねぇか!」
「てか、茜は早くマスカ仕舞ったら?また疲れて倒れちゃうよ」
「え?あぁ、そういえばそっか。マスカ、ハウス」
「おのれ小娘・・俺を犬のよう・・・・」
霞のように消えていくマスカに向かい、茜はあっかんべぇを全力で行った。周りの冷ややかな目線など気にも留めず、最後には彼がいた場所に唾を吐き飛ばしすらした。
「へっへー、これでわかったか?アタシが上、テメェは下だぁ!」
「これが・・平和をもたらす戦士・・・」
小声で呟きながらよろめく井上に、ニコラと陽菜が同情の眼差しを送る。
「俺も」
「私も」
「「不安です」」
しばらくして、井上の魔術で傷と衣服を治してもらった茜はターキーから拝借した剣を全て返した。中には魔具と呼ばれる呪文が込められた剣もあったそうだが、茜は世話になったのに貰っては悪いと全て返した。
「じゃ、アタシら行くぜ」
「これから先は、3凶の爪痕が残る地になる。あまりマスカを使って変な疑いをかけられるんじゃないぞ。下手したら、キミを討伐するためにボクが派遣されるかもしれないし」
「それはやばいな、茜分かったら返事や」
「・・・お前、アタシを犬かなんかだと―」
「はいはい!出発するよー!」
「あっ!陽菜なにしやがる!腕離せ!」
「世話になった。出来ればあなたとは、もっと友好的な出会いをしたいと思ってる」
「ボクもそれは同じさ。こんな清々しいほどろくでもないのに、真っ直ぐ過ぎるからね」
かくして茜たちは次なる地へ旅立った。新たな課題、新たな脅威は増え、今後も増えていくだろうが、彼らの目は明るく光っていた。
茜たちを見送りターキーを家に帰した井上は、1人河原に戻って来た。
気づけば陽は傾きかけ、あと数時間したら森は暗黒に包まれるだろう。
「さて、こんな形で再会するなんてね」
「あら・・・気づかれてた?」
「もちろんよ、結子。昼からずっと尾けてたでしょ」
木の陰からのそりと現れたのは、エルフの里を襲った上田結子だった。
「あの子の、占いのおかげかしら・・?」
「・・当たらずとも遠からず。教団に直接攻撃をすれば、悲劇を生む」
「そうそう・・・駄目よ無駄な戦いなんて、そんなの」
「バカにやらせればいい。でしょ」
ふわりと、井上の衣服が浮く。
「言う事あるでしょ。白獅子隊を突然辞めて、今まで何してたの!?」
「・・・戦いは、嫌い・・・・」
上田結子の衣服が、ふわりと浮かび。彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
ろくでもない異世界転生をさせられたアタシ-ペイラスモス- あべくん @amespi77
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