第8話 マスカの謎
「でぇ!いつまで踊ってんだテメェらッ!」
「んなこと言ってもなぁ、アイツが離れたら動けたんやけど・・」
「仕方ない、人生とはかくも儚く・・」
「言い訳すんなや!気合だ気合!それでも金玉ついてんのか!」
「あっ、私は・・無いから大丈夫?」
「陽菜はしばく、今決めた」
ケーフィの力を見に宿した井上が近くに来たせいで、忍たちは再び踊り出した。不格好な踊りはもはや奇行にすら見える。
(・・・・・まぁ、あの子は違うか・・)
「いいか、アイツはクソ強ぇ。今までで一番強ぇんだ!アタシと忍だけじゃ勝てねぇし、ニコラと陽菜がいても勝てるか分かんねぇんだ!」
表情を強張らせてケーフィの力から逃れようと必死に抵抗しながら踊る仲間たち。茜は怒鳴っているが、もう半泣きになっている。
「お願いしますからぁッ!もう踊るの止めて戦ってくださいぃ!」
(あ、マジで違うわ。うん)
ふっと、忍たちは踊るのを止めた。まるで蠟燭の火を吹き消すように他愛なく。
「んぁ?」
「これは・・」
「あれあれ?体が動く・・?」
その原因を瞬時に察した茜は、仲間たちより前に出て白炎の翼で庇うように広げた。睨みを効かせるのは勿論、立ちはだかる強敵。
「時にエルフ、キミはマスカを知っているかい?」
彼女の言葉を聞き、茜たちは時間が止まったような錯覚を感じた。全員が肩眉を上げたり口をぽかんと開けている。
「・・いや、知らない。マスカなどという精霊の名前など、我らが祖先たちが書き記したどの書物にも載っていない」
「それがどーしたんだ!やんのか、やんねぇのか!?」
本心では井上が戦闘を止めて欲しいと願っているし、なんなら仲間たちを岩に隠してマスカの力で岩ごと逃げようとしていた茜だが、彼女の言う通り敵に懇願して仲間たちを助けられるような状況でもなかった。
だが、井上が兜を外して小脇に抱え、悲し気な目が露わになると虚勢を張る気も失せたようで前かがみになっている体をすっと戻した。
「それでいい高橋茜。ボクがこれから話すことを、よく聞いて欲しい」
優しそうな井上の顔にちりばめられたそばかすは、彼女の愛嬌を際立たせている。
「このアドニスに、何万年も前から途方も無い年月を生きるエルフたちは自然界に存在する精霊の事を細かく書き記して後世に伝えてきた。それでも、エルフはマスカを知らない」
「それが、なんだってんだ。このクソ生意気なんて知らねぇ方が幸せだと思うけどよぉ?」
親指で雑に背後のマスカを指差すと、彼は含み笑いをして茜をおちょくる。
「でも、ボクはマスカを知っている。付け足すなら、3凶と戦って生き残った異能者や、奴らに襲われても奇跡的に生き残った人だけがね」
「え・・それって・・・」
両手を握り締めて胸を抑え、陽菜が呼吸を乱し始める。ニコラも冷静を装っていても動揺が顔に出ていた。そんな2人を見やって、茜と忍は首を傾げる。
「どうしたんや2人共」
「まー、何となくオチは分かる。けどよぉ、それがどうだってんだ?」
「その者の心根に共鳴した精霊が、ボクでいうケーフィであり、キミでいうマスカ。オチの方は予想通りさ、かつてこのアンシャンテ大陸を襲った3凶の1人が、マスカを使っていた」
腰に下げた魔導書を手に持ち、ページをぱらぱらとめくって杖を構えた井上に茜と忍が構えたが、彼女は砂利の上に小さな炎を出しただけだった。
「この炎、マスカで操れるかい?」
「んなもん・・・・あれ?」
「出来ないだろ?マスカはね、火の精霊じゃない」
本を畳み、井上はくりりとした目で悲しそうに茜を見つめる。
「真野咲。奴のマスカは水と岩を操り、あらゆる物を呑み込んだ。ノチェロに呼ばれた戦士、その者だけがマスカを発現させているのさ。まぁ、キミで2体目だからもしかしたら今後別の人がマスカを発現させられるかもしれな―」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!さっきから何言ってんだアンタ、精霊ってその人オリジナルじゃねぇのか?なんでその真野って奴もマスカ使えんだよ!?」
「気が合う人っているだろ?そんな感じで、名前は同じでも姿が違う精霊を持つ人はいる。ボクのケーフィを、鳥や熊の姿で発現させた人だっているし。なんなら、異能だってそうだよ。能力が似通った異能を使う人だっている・・・」
兜を持つ手に力を込め、井上は目を見開いて茜たちに声を張り上げた。
「今までもカクタスとラスティが悪い異能者を倒す使命を負った戦士を転生させていた。だがノチェロが加わったのは今回が初めて。キミはね、長らく現れなかった3人目の戦士なんだ。そして、マスカを発現させたという事は、真野咲のような凶悪な人間だということ」
あまりに突飛な話だったが、茜は彼女の言葉の意味が分かって舌打ちを打つ。
「つまり、アンタが見せろって言ったのは―」
「キミが奴とは違う所を見せろって訳だった。そして、茜は違ったってわけさ」
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