第7話 茜の決意、仲間の思い
「茜に何してくれてんねんテメェッ!」
空気を読まない怒鳴り声が井上と茜の耳に轟いた。
遥か地上から異能の爆発で飛んできた忍が、あまりの勢いでそのまま2人の頭上に飛んで行ったかと思うと、彼は身を翻して再度爆発を起こし、戻って来た。
「強いのは分かった!でもな、俺らは2人でやってきたんやッ!どんな奴が相手でもなぁ!」
腕を振りかぶって拳を固め、上にいる井上を鬼の形相で睨む忍がパンチと共に爆発を起こして火炎と熱風の塊を向かわせた。
「忍!?ダメっ、そいつは火の精霊だ!」
忍が発した爆発に井上が手を向けるだけで、爆発は寸前で止まる。
「いい小道具じゃないか」
爆発を2つに分け、茜と忍にそれぞれ飛ばそうとしていた彼女の足元で、豪快な笑い声がこだまする。
「止めるって、思ったでぇ!」
爆発を止める事に意識を取られた井上の懐に入り込んだ忍は、彼女の作った足場に乗って水の爆発を至近距離で放った。
吹き飛んでいく井上を見て拳を突き出して笑う忍だったが、彼女が離れた事で異能の効果が切れて下に落ちていく。
「ったくよぉ・・思いつき過ぎるっての」
「んぁ?落ちた俺を茜がキャッチ。そこまでが作戦やったからな」
茜にお姫様だっこをされたままであっけらかんと笑う忍を見ている内に、彼女は沈みそうだった暗闇から抜け出していた。
故に、いつまでも自分の腕の中にいる男が何だか気に入らず、ゴミを降ろすように腕を下げたのだった。
「女子にだっこされたまま笑われてもよぉ、ダセェっての」
「なら、これでどうや?」
足元で小さな爆発を起こす。右足、左足と交互に発生させながら上昇して来た忍はそのまま茜の横に並んで高度を維持した。
「うっさ・・ボン、ボンって」
「しゃーないやろ?大家さん怒る訳でもないし」
「空に大家なんているかよ」
「いないよね、そんな人」
ハッとして2人が頭上を見上げると、下に降りる人影が見える。
「1対1の戦いに横から入って来るなんて・・ろくでもないったらありゃしないよキミ」
「なに言っとんねん、こっちだってこれからや」
茜の腕を無理矢理掴み、忍は爆発を起こして地面へと向かう。
「ちょっ!?忍、どうしたんだ急に!」
「ええから来い!」
後ろから3本の尾を束ねて火の噴射をして井上が追いかけて来るスピードは、忍が起こす爆発よりも早く、茜は大急ぎで彼女の真似をして白炎の翼から炎を噴射してみせた。
空気が壁のようにぶつかって皮膚が持って行かれるが、それでも噴射を緩めれば井上は瞬く間に追いついてしまう。
「ええか茜、確かに茜はマスカを使えるようになった」
「えぇ!なに!?風がうるさくて聞こえねぇよッ!」
「せやけどッ!茜は1人で戦っとるわけやない!俺が、ニコラさんが、陽菜がおる!」
井上を振り切り、砂利を吹き飛ばして爆発と共に河原に降り立った。
忍の爆発のせいで土煙や上から落ちて来る石ころがうざったく感じた様子だったが、彼女の心には温かなものがあった。
「いくら白獅子隊とはいえ、これ以上俺の仲間に手は出させん」
「わたっ、私も・・!えっと・・歯向かうって意味じゃなくてあのその・・!」
この世と人に無関心で誰がどうなろうと自分には関係ない。そう思いながら生きて来た茜がこの世界に来て得た、自分には過ぎた宝物。
「ったく、お前ら・・」
ディーゼルに不遜な態度を取りハーベイの依頼を歪んだ形で遂行し、彼の妹を殺した。
現実世界では中学時代から和田巧をいじめ、不良行為を働いていた。
どれだけ心根が良いとしても、周囲の環境のせいにして自堕落な日々を送り、茜は己の心に言い訳をして向き合わなかった。
(間違いだらけなのに・・今更)
高橋茜は立ち上がる。勢いを失くしたはずの白炎の翼は力を取り戻し、背中と横っ腹に負った火傷は重症だが、痛みに屈するまいと両の足を踏ん張った。
「でもよ。今更だからこそ、なんだろうな。この傷は、言い訳ばっかで何もしなかったアタシへの戒めだ。いるんだろ?井上円」
痛みと失望でぼやけていた茜の視界が晴れ、強敵が映る。忍が水蒸気爆発を至近距離で喰らわせたというのに彼女は傷はおろか、衣服にすら損傷は無い。
「・・・続けるみたいだね。いいよ、どうせお仲間たちも殺す予定だった」
「さらっと言うよなーマジで」
ザッザ。
「でもわりぃな。コイツらは殺させない、バカとオッサンとビビりだけどよ」
ジャリッ、ザッ、ジャジャジャッ。
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