第5話 中級精霊同士の戦い
「踊れ、ケーフィ!」
紫色の火炎が躍るように現れて井上を怪しく照らし、紫色の九尾が立派に生えた尾を揺らして彼女の背後に出現した。
「お、踊れ・・?」
(なんだなんだ?踊れって、どんな能力なんだよ!?)
唖然とする茜に対し、井上は更にダンスを続けていく。ケーフィも細い目をにこりと曲げて紫色の火炎と共に体を揺らしたり跳びはねたりしている。
「オイ!なに一人で踊って―」
「んぁあ!?なんやなんやぁ!」
一際大きな叫び声に茜が冷や汗を飛ばしながら振り返った。
だが、すぐさま彼女は肩をがくっと落とすハメになる。
「分かんないけど・・これ楽しい!」
「おぉ!踊るなんていつぶりか!」
ヒップホップとは違うが、陽菜もターキーも不慣れながら笑顔で踊っていた。
「どうなっとんねん!?体が勝手にッ!」
「仕方ないさ忍!あれは踊りや宴を司る精霊だからな!俺も、フゥッ!」
たじろぎながら踊る忍と、何故かノリノリなニコラ。
「・・・キレがいいなニコラこら」
「彼はエルフ、自然と共に生きるエルフ族は精霊に詳しいのさ。だから、ボクのケーフィの能力に観念したってわけ」
彼女の言葉に、茜はハッと我に返った。
「分かったようだね」
「・・なんで、アタシは何ともないんだ?」
「おめでとう高橋茜、ゼロ手前から5ぐらいまで進歩だ・・100点満点評価中ね」
途端に、ケーフィを紫の火炎が包んでいく。それは徐々に全体に及んでいき遂には球体となってしまった。それでも、忍たちの踊りは止まらない。
「今度はなんだってんだ・・!」
「いけない!茜、離れろッ!」
背後から聞こえるニコラの怒鳴り声よりも、茜は目の前の井上が不敵な笑みを浮かべていた事の方が気になっていた。故に、これから起こる出来事の全てを目撃する。
紫色の火炎となったケーフィが、井上円の全身を包んで彼女を燃やす光景を。
「見せてあげよう、キミが見た事の無い力を。己の心と向き合い、心を我が物とした姿を」
火炎が渦を巻き周囲では火の玉が躍るようにぴょんぴょんと跳ぶ中、井上円は楽しそうに笑っていた。
「これが、真に精霊を使いこなす者の姿さ」
紫色の火炎が裂け、中から現れた井上の姿に茜は息を呑んだ。
狐を模した兜の頭頂部から飛び出した紫色の耳はまるで狐のそれで、腰の後ろから狐の尻尾が一本生えていた。
井上円の姿に、茜は冷や汗を頬に伝わせて一歩後ずさる。
「・・・・・はぁ?」
「もっと、驚いたりしないのか・・?」
「いや、なにがなんだか・・その耳と尻尾なんだよ?てかケーフィどこだよ?」
「それは憑依だ!精霊と心と体を一体にすることで、精霊の力を底上げできる!だがっ、精霊に意識を奪われて暴走する危険があるから誰もやらないッ!」
踊りながら鬼気迫った表情で怒鳴ったニコラへ、茜は振り返る余裕も無かった。
(つまり、強くなったってことだよな・・・クソ。異能に精霊にと気を遣ってきたのに、今度は憑依できるかどうかって考えなきゃいけねぇのかよ)
紫色の火炎を照明や小道具のように巧みに操り、自分のダンスを引き立てる井上。
歯を食いしばり、茜は頭を振って不敵な笑みを必死に浮かべた。
「いつまで、踊ってやがるッ!」
白炎の翼を広げ、力を溜めてから扇ぐように翼を動かすと火炎が絨毯のように地を這っていく。デネブの街を呑み込んだ時ほど大きくは無いが、人の背丈ほどあり家3軒はゆうに呑み込めるほどの攻撃。
尚も彼女の視界の中では井上はダンスを続けており、あと数ミリで白炎が彼女を燃やそうというその瞬間。井上は素早くジャンプしたかと思うと、何も無いはずの空中に足を着け、更にそこから跳躍して地上10メートルまで数秒で登った。
「惜しいねぇ惜しいねぇ!あとちょっとだったのにねぇ!?」
すぐさま翼をたなびかせて空中に飛んだ茜は彼女よりも少し高い地点に位置取る。
「その兜の奥の笑い顔、泣き顔に変えてやんよ」
姿勢を倒し、今度は井上に向かって急加速。
何も無いはずの空中でダンスを続ける井上を睨みながら、白炎の翼をそのままぶつけようとした茜だったが、直撃の寸前で彼女が下にストンと落ちる。
「残念だった―」
自分を見上げた彼女が息を呑んだ。そうと分かると茜は悪魔のようににやりと微笑む。
「どっちでも良かったんだぜ?」
白炎の右翼には、既に球体の白炎が作られていた。
「上でも下でも!どっちでもよぉ!」
球体から発せられた火柱は、上下に向かって放たれた。
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