第2話 再会

「クソッ!まーだ体がバッキバキじゃねぇか!おい・・ジジイ、この茜様に何しやがったか正直に言えば、骨まで焼かないでおいてやる」

「それって!俺死んでるじゃねぇか!」

「ったりめぇだろバカか!」


 黒と赤の衣装に白銀の仮面を被った道化師が茜の背後でくすくすと笑い、茜は肩眉を上げて目を吊り上げる。


「テメェもなに笑ってんだ!アタシの使い魔だろ!?」

「いやぁ?このドワーフの家を破壊しても、殺しはしなかった辺りが可笑しくてな」

「・・ど、どわぁふ?」


 吹き飛んだ土や家具は無残に燃えているが、肝心のドワーフは腰を抜かして倒れているだけでまだ無傷だった。


「前までのお前なら、もう殺してたハズだ」

「・・・おまえ?今、このアタシにお前っつたかアァコラ」

「お前、耳も悪いのか?悪いのは頭だけにしとけよお前お前お前お前」

「はーいキレましたよっと。茜様ね、生意気キライ」


 今しがたマスカの白炎で吹き飛ばした家には目もくれず、腰に差したカトラスを抜いて茜はマスカに切っ先を向けた。


「なにが使い魔だ、なにが中級精霊だ。これなら久米のトイコスの方が良かったわー」

「自分の使い魔と戦う奴がいるとはな」


 悪魔のような翼を広げて含み笑いをするマスカに、茜は未だ覚束ない足を踏み出す。

 全長3メートルはあり常に浮いているマスカなので、茜はまず足を斬ろうとカトラスを振りかぶった。昼の陽射しに照らされて白く輝く刀身が黒いズボンに襲い掛かるが、直前でふわりと浮いて逃げたマスカに茜は舌打ちを打つ。


「ハッズレー!ケケケケケケケ!」


 白銀の仮面は嗤い、同時に片目から涙を流している。


「んなキショ笑いすんならマジでクビだ!」

「ケーケケケケケケケ!」

「何なんだ・・この人間・・・・」


 必死に剣を振り続けるもその全てをひょいひょい躱していくマスカ。ムキになって追い続ける茜を口を開けて見つめている内に、抜けた腰も震えた体も元に戻っていた。


「大丈夫かターキー」


 小さくずんぐりとしたドワーフの肩を掴んで立たせてくれた女性に振り向いて、ターキーはこくこくと頭を縦に振る。


「はい、なんとか・・井上さん」





「そこをどきなさい、今直すから」


 狐の兜の奥から聞こえる温かな声に、ターキーはさっさと抉れた土を登り草の上に立つ。

 彼を見届けてから腰のベルトから下げている剣を避けて分厚い本を手に取り、本の背に仕舞われていた木の杖を取り出す。

 慣れた仕草で使い古された本のページは魔法陣が描かれており、その中から彼女は1つの魔法陣に杖の先端を当てて意識を集中させた。


「廃れ破壊された物よ、汝の元の姿に戻れ」


 魔法陣から破壊された家に杖を向け、先端から水色の光がシャワーのように飛んで拡散し、破損部分を覆っていく。するすると木の破片や石の破片が動き出して他の破片と結合して元の姿を取り戻していった。ベッド、棚、机、本。かまど、火床や金床といった鍛冶道具。


「やはり君はすごいな・・家具や仕事道具は壊れてしまっていたが、剣は鞘ごと無事だぞ」


 感嘆の息を溢しながら家を直し終えた井上に、ターキーは照れ笑いを浮かべて頭を掻く。


「いえいえそんな、これでもドワーフの端くれですから」

「・・・そんな君を仲間の元に返してあげたいのだがな・・」


 打って変わって悲し気に返す井上は、ターキーが家と言い張る物を見やる。

 それは平地を掘り進め、その時に出た土を屋根にしただけの穴倉だった。一応簡素なドアや窓などを付けているが質素さがいがめない。

 杖を本の背にしまい、ベルトから繋げた鎖がぶらりと本を垂らす。それと同時に井上の肩が下がったが、弱い姿は見せまいと彼女はキッと前を向いて気持ちを切り替える。


「さて、あっちも終わったかな」


 振り向くと先程までマスカに剣を振り続けていた茜が、両足をツタで絡められ両腕を見えない糸で縛られていた。大層不機嫌な面持ちで、3人のしかめっ面にガンを飛ばしていた彼女は意識を集中させてマスカを戻した。


「・・まぁなんや、元気になったのはよかった」

「じゃこれやめろ」

「全く、これが神に選ばれた戦士なのか?」

「いいからやめろ」

「ねぇ茜ちゃん?ターキーさんに謝った?」

「謝るからやめろ」


 誰がどう見ても彼女は反省していなかったが、忍は溜息を吐きつつも小さな爆発を起こして茜を拘束していたツタや糸を壊す。


「おはよう、5日ぶりやな」

「・・・・は?」

「5日ぶり。茜な、マスカの反動で5日間ずっと寝てたんやで」

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