この日、僕は病者の多様性を見た。

本作は、当時17歳の著者ががんかもしれないと疑われ、診断が確定し、手術、退院までを綴った闘病エッセイだ。

何かあるかもしれないとなってから診断が確定するまでの時間、その時間で考えることの現実味があますところなく表現されている。
僕も、そういう時期を過ごしたことがあるからよくわかる。
医療ドラマなどでは省略されがちな、疑惑から診断までをしっかり描写しているところに、病のリアルがある。

重篤な病気の疑いが濃くなっていくなかで、著者の頭にあったのは部活のことなどで、僕はそれに心底驚愕した。
生まれついての病者である僕は、病気に関する何かがあれば、どんなに夢中なものがあっても、それを差し置いて病気の治療が最優先になる。
気持ちの上でも、行動の上でも。
だが、著者はそうではない。
僕と著者の大きな違いはそこにある。
人生における、病の占める比率とでも言える、そういうものが異なっている。
病との向き合い方はいい悪いではないが、人によって大きく違うことを知れた。

珍しい病気の情報がないことから、情報発信の意味も込めて執筆されたようだが、実際、非常に価値あるものとなっている。
医学知識を学べるわけではないものの、突然の病とはどのような流れを辿るのかがイメージできるこのエッセイは、いつか著者と似たような境遇になる誰かを救うだろう。
また、著者の治療への感想は、ある程度近接分野を学んだ身からすると、とても新鮮に思えた。

人には人の病がある。
誰かの病を「わかる」と言うのは傲慢でしかない。
けれど、他人の闘病から学ぶこともあるはずだ。
その意味で、病で日常がどう変わるのか不安なときに読むと安心できる作品といえる。

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