木城の空論 ―観測者―

九詰文登

木城の少年篇

天を衝く大樹

『あるところにとても大きな大きな樹がありました。

 その樹の枝は天の雲の上にまで届き、幹は大きな湖を一つ覆ってしまう程。

 またとても大きいため、その樹の一番上まで昇れた人は誰もいません。

 でも時々木の上から、人が作ったような物が落ちてくるのです。

 ある人は言いました。

「この樹の上には人が住んでいて、国を作っているんだ」

 多くの人はその人の話に耳を貸しませんでしたが、勇気のある人はその樹をなんとか昇ろうとします。

 新たな世界を望んで。

 それから長い時間が経ちましたが、未だその樹に昇れた人は一人もいません。

 なぜなら、その樹は昇られることを嫌がるのです。

 人が幹を昇り始め少しすると木の実を落とし、昇ろうとする人たちを追い払うのです。

 そのことがあってからいつしかこの樹は触れてはならない神様のような存在として、天を支え、地を形作っているのではと思われるようになりました。

 そして大樹は世界の始まり、世界の原型として、唯一ノ木<ザ・シード>と呼ばれるようになりました。』

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