第7話 健全なる肉体には

眩い光を放ちながら病室のベッドの側に召喚されたボディスライム。


その出で立ちは俺が倒れる直前に、薄れゆく意識の中で目にした面影と完全に一致している。


「おおおおぉぉ……。」


見たこともないスライムだ。ゴーレムのような巨漢の体躯に、蛍光灯の光を受けて鈍く輝く黒曜石の如き存在感。スライムにしてはなかなか迫力のある姿だが、しかし、スライムであることには違いがない。


俺は感嘆と悲嘆の混じり合ったなんとも微妙な唸り声を出した。


その存在感からして確実にCランクの召喚獣で間違いない。


まだ育ってもいない状態でこれだけの存在感を持つスライムなど見たことも聞いたこともない。


スライムといえば最弱。最弱といえばスライムだ。


脆さや弱さにおいてスライムの右に出る召喚獣はいない。


それを知っていてなお、俺はこのボディスライムへ期待をかけてしまっていた。


よしこは返さなくていいといったとはいえ借金は借金だ。返す当てがないのは体裁的に不味い。


数え切れないほど召喚して、山のように大量のスライムを召喚した。正直、明細表なんて怖くて見れないほどに浪費した自覚がある。


それで生み出されたのが山ほどの何の変哲もないスライムたち。


ゴーレムではなかったが、いままでのスライムとは存在感からして別格のスライムだ。


きっと借金返済の一助となってくれるはず。


そんな期待を胸に抱きながら、俺は腹ごしらえのために見舞いの品として持ってこられたであろうバナナを取るようにボディスライムへと命令をした。


「ボディスライムよ、バナナを取ってくれ。」


「………。」


ボディスライムはぷるりと身震いしながら沈黙を保った。


「……。」


俺も思わず沈黙した。口をあんぐりと開けて。



「バナナを取れ、取るんだ!」


スライムとの契約のつながりを意識しながら俺は再度強く命令した。


「………。」


しかし、ボディスライムは身震いするだけで、沈黙を保ったままである。


このとき、俺はボディスライムもまた、存在感こそ違えど、使えないスライムの一体であることを認識した。


「おあああああああああああああああ!!」


希望のコインが裏返った様に俺は絶望感と怒りが入り混じり殺伐とした感情を持った。絶叫とともにそれらは渦巻くように心中に暴虐の嵐を齎した。


「あああああああああああああああああ!!!」


何十秒か、それほど長くはない時間が過ぎ、息が切れた頃、俺は一転して沈黙の姿勢に切り替わった。


使いすぎたクレジットカードの化身が頭の中で手足を生やして「返済!返済!」と茶化すようにぐるぐる廻りながら踊っていた。


「もういやだあああああああああああああ!!!!」


再度叫んでから、俺は蹲って泣き出した。


石を砕けばスライム。走馬灯にスライム。始まりから終わりまで永遠にスライム。


人生の終着点にはきっとスライムが待っている。


スライム、すらいむ、すらい厶、すら……



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僕はスライムマスター べっ紅飴 @nyaru_hotepu

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