第5話 ご利用は計画的に

よしこに金の無心をしてから数日が経ち、俺が召喚したスライムは数万匹にも達していた。最初のうちは遠慮していた俺も、積み上がるスライムの山を見ていくうちに理性の箍が外れてしまったようで、よしこのブラックカードを呼吸をするかのように召喚石を調達するのに使っていた。


最下級の召喚から、最上級の召喚石まで、ありとあらゆる等級の召喚石を集め、ひたすらに召喚を続けていく。


その道程のなかで、街中の召喚石が買い占められ、四方から苦情が殺到したが金の暴力で黙らせた。


駆け出しの召喚士からすれば迷惑な話だろうが、実のところ俺の買い占めによって困るのはそうした一部の召還士だけである。


そもそも魔石の全てが召喚に利用できるわけではない。召喚に使えるのは魔石の中でも召喚石に分類される石だけだ。召喚石は召喚以外に利用できないかろ召喚士以外に必要とされることもない。

また、実際問題召喚士は普通何匹も召喚したりはしないのだ。


いくら契約をしているからと言っても、召喚士と召喚獣の立場は対等だからだ。


召喚した召喚獣と十分な信頼関係を築く前に次の召喚獣と契約するということを繰り返せば不信を抱かれるきっかけになり得てしまうからだ。


もう一つ、召喚獣は喚べばその場に召喚することもできるが、喚ばなくても勝手に出てくることができるのである。

召喚中は召喚士の体力や気力を消耗するため、見境もなく召喚を繰り返した召喚士は、契約した召喚獣のうちの何体かが顕現しようとしたときに急激に気力と体力を消耗し、最悪死んでしまったりする。


ゆっくりと時間をかけて互いのパートナーシップを結べば召喚獣も限度を超えて顕現しようとはしなくなるし、そもそもの話、召喚獣との繋がりが深まるほどに体力の消耗などは抑えられるようになっていくのが普通である。


そうしたセオリーは召喚士の基本のキであるため、間違っても続けて召喚するという行為をする召喚士はいない。

相応の準備を終えて初めて新たな召喚獣と契約することができるのである。


ただ、俺の場合は事情が少し違った。

スライムは顕現しても全く消耗することはないし、そもそも勝手に顕現するようなこともしない。

彼らが応じるのは召喚を念じるという行為だけである。それ以外は何も聞かない。


ただし、いくらそうであるとはいえども、続けて召喚をするというのが愚かな行為であることには変わりがない。


なぜなら、召喚獣を召喚して契約するという一連の動作も体力や気力を消耗する行為だからだ。


知り合いの召喚士に聞いたところによれば一度の召喚で消耗する度合いは、C級召喚獣を1日中顕現させ続けるよりも消耗するらしい。


確かに初めて召喚を行ったときはとても疲れたような気もするが、今となっては10回召喚してもそこまで疲れるということもない。

これが千回以上ともなれば話は別だが、1回程度では微風が吹いたことにすら気が付かないようなくらいに何も感じていない。そうなった原因は不明だ。

もしかしたら召喚技術が卓越してきたのかもしれない。


そんなことを考えながら俺は本日何度目になるかもわからない召喚を行った。


そして召喚されたのはやはりスライムだ。

今回は赤いスライムだ。血のような深紅の色合いがあり、時々脈打つように大きく震える姿がキュートだ。


俺は無表情でそのスライムを作ると、流れ作業としてそれを遠くへと投げ飛ばした。


初回の召喚時は時間経過でしか召喚獣を送還することはできないため、連続して召喚するのならば邪魔にならないように遠くに投げることにしたのだ。


少し街から離れた場所で召喚しているとはいえ、辺り一帯がスライム塗れである。


そろそろ誰かが不審に思ってやってきても不思議ではなかった。


買い込んだ召喚石は残り100個あるかないかだろう。


流石に何万と召喚を行うのは体に無理があるようで、先程から息切れしたり、意識が朦朧とし始めていた。はっきりとしているのはスライム畑が規則正しいリズムでぷるぷると震えていることだけだ。


視界の揺れなのか、スライムの揺れなのか、段々と分からなくなりながら、俺は一心不乱に召喚を続けた。


気づけば、召喚石は残り一つとなっていた。


「ハァ…ハァ…ゲホッ……これで……最後……」


息切れしながら俺は召喚石を握りしめ、本日最後の召喚に臨んだ。


俺の手によって構築された召喚陣が例の如く輝きを放っていく。


光が段々と収まっていく中で、俺の目に映ったのはゴーレムのようなゴツゴツとしたシルエットだ。


ここまで疲れていなければ喜びの雄叫びでもあげていたかもしれない。


しかしながら、俺の意識は召喚の光が収まる前に途切れた。


______________________

tips:初回召喚


初回召喚時は召喚獣をこの世界に定着させるために普通に召喚するよりも大きく力を与えなければならない。召喚士が新しい召喚獣と契約をするために召喚をするために召喚するときに非常に疲れるのはこのためである。

また、送還できないのは定着するまでに時間がかかるからであり、また、その間も召喚士は体力などを消耗する。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る