第6話 知らない天井だ

「はっ!?」


前触れもなく意識が覚醒し、思考が冴え渡るような気分になったのも束の間のこと、全身に感じたこともないほどの疲労感を感じる。


目を開いた先にあるのは汚れ一つない真っ白な壁だ。


壁。蛍光灯が等間隔に並べられた白い壁。


いや、これは天井だ。


「病院か…?」


そう呟いて、俺は目覚める直前に起きた出来事を思い出した。


(そうか、俺は倒れたのか…。)


契約のし過ぎで死ぬことだってあるのに迂闊だったと俺は反省した。あのときは完全にランナーズハイで、すべてを引ききればスライム以外が出るのだと根拠もないのに信じて疑わなかった。


その甲斐あってか、あのとき俺は明らかにスライムとは姿形の異なる召喚獣を召喚していた。


「そうだ、あのゴーレムはどこだ…?」


召喚士は召喚している召喚獣がどこにいるのかということを大まかに知ることができる。

離れていてもその存在を感じ取るという不思議な力を持っているのだ。


俺は目を閉じ、集中しろと心のなかで念じながら意識を研ぎ澄ませる。


しかし、なんの反応もなく、仮称ゴーレムの反応は感じ取れない。


スライムの残念なところは召喚主が念じなければ送還できなかったりすることだが、ゴーレムであれば関係ない。


どれくらい気絶していたのか知らないが、それなりに時間が経過し、ゴーレムの存在が世界に馴染んだことで自動的に送還されたのかもしれない。


そう考えた俺はゴーレムを思い浮かべながら顕現させるための召喚陣を用意しようとして、俺が契約する召喚獣の中にゴーレムがいないことに気がついた。


ゴーレムでないならあの人影は何だというのか。


俺は困惑しながらあのゴーレムのような人影の姿を強く想起した。


すると、ここから北の方角にある反応を探知した。


そして、同時にその正体について完全に察知した。


「はぁ…マジかよ…。嘘だろおい……。」


やりきれない思いに胸が詰まりそうになった。


大きなため息を付いてから、俺は気怠げに状態を起こした。


「我が呼びかけに応えよ、ボディ・スライム召喚」


別にこういうことを言わなくても召喚できるが、こうすることで召喚獣に思念を送りやすくなり、召喚が容易になるのだ。

一般的に、一度に複数召喚するわけでもないのならこの方法を取ったほうか良いと言われるほど、召喚補助効果が高いことが認められている。


召喚補助として詠唱をおこなったことで召喚はとてもスムーズに行われた。もし詠唱を使って嫌がったら召喚されるのが遅くなっていただろう。

儀式的で少しめんどくさくも思えるが、これが結構大事なのだ。


そうしてボディ・スライムが俺の病室に召喚された。

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