リクエスト編 ろう者の世界に同音異義語はないのか?

 今回は、中辛バーバリアン様からの疑問に、お答えさせていただこうと思います。


『最近読んだ昭和の古い小説に、「聾者の世界に同音異義語はない」と当たり前のことのように書かれていたのですが、正直ほんまかいなと謎が残っています』


 この内容、実はかなり難しい問題なのです。

 この疑問を答えるには、まず『手話とは何か?』というところから、考えなければならないでしょう。

 手話は『文字を持たない言語』とも言われています。

「えっ? でも、ろう者の手話は、テレビで字幕とか出ているよ?」

「手話をしながら、話しているのを、見たことがあります」

 いろいろな意見があると思いますが、これには誤解があるのです。


 例えば『元気』という言葉があります。

 日本語では『元気』ですよね。

 手話では『体の状態が悪くなく、生きていて、気力がある』ことを言います。

 手話の『元気』は、単なる『元気』というとは違います。『生きている』『頑張っている』など、1つの動作に複数の意味があるのです。これは、手話の中で、決して珍しいものではありません。


 日本語の文法とは、異なった道を進んできた日本手話には、そもそも日本語にある『枠』のようなものは無のです。

 ところが、1880年以降に手話は変化していきます。新しい手話が出来て、それが急速に広まったのでした。

『ろう学校』の誕生です。


 最初に、ろう学校が出来たのは、1878年。京都盲唖院だと言われています。

 1880年になって、東京でも訓盲院が設立されました。

 この2つとも設立者は聴者です。

 ろう学校で、聴者が関わることにより、日本語由来の手話や、個別の手話も増えてきたように思います。

『テレビ』『冷蔵庫』『エレベーター』『スターバックス』なんていう手話もあります。

 手話は毎年何百も新しい言葉か増え、逆に古かったり使われなくなった言葉は、いつの間にか消えていきます。


 手話には動きしかなく、『言葉』は存在しないので、『同音異義語』もありません。ですが、『同手話異義意味』(同じ手話で、違う意味を表す)ならあります。


 例えば『良いね』と『ダメ』全く反対の意味ですが、手話は同じです。

 親指を立てて、Goodのポーズ。これが、その手話です。

 他にも『学校』と『ホームページ』、『福岡』と『博多』と『帯』、『群馬』と『馬』、『星』と『珍しい』とか……もう、沢山ありまくりです。


『異手話同意味』(意味は同じなのに、違う手話)というものも、沢山あります。

 例えば『沢山』、『美味しい』、『銀行』、『買い物』、『希望』、『水』、『火』……時代と共に増えたり、用途によって変えるものもあります。


 なぜ『言葉』ではなく、手話で『同じ動き』の手話が出てくるのでしょうか?

 実は、当然とも言えるわけがあるのです。


 あまり知られていないことですが、手話には暗黙のルールがあります。

 新しい手話も、それらから外れない物を作るようにしているのです。

(頻繁に使うので、指、手首、腕などに負担のかからない動き、方向、稼働領域であること)

『制限された手の形や動き』の中から作られたモノですから、当然ながら似たもの、同じ物が出てくるというわけです。


 上手く説明できたかわかりませんが、これが答えになります。


【答え 手話に『同音異義語』は、厳密に言えば無いが、『同音』を『同手話』に置き換えた『同手話異義意味』は存在する】でした。

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2025年1月2日 07:00
2025年1月9日 07:00
2025年1月16日 07:00

手話のお供 元橋ヒロミ @gyakuryu

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