第5話 約束


 目を開けると、カスミの前には、白い壁と黒いフローリングがあった。


「あ、ごめんっ! クツ履いたまま……!」

「いいよ。元々、この家では、靴を脱ぐのはベッドの上ぐらいだから」


 ルイは「ちょっと着替えるから待ってて」と言うと部屋に引っ込んだ。

 カスミは握られていた方とは逆の手の中のピンクの花のドライフラワーを見た。それから、天井を見上げる。あの丸い屋根の小さな家の中にあったドライフラワーの天井が、ここにはなかった。

 背の高い天井には梁も見えて、黒い家の柱と梁が魔法使いの家らしさを表しているみたいで、カスミはワクワクした気持ちがまた湧き上がってきた。


「ああ、そうだ。言うの忘れてた」


 白い服にサスペンダーと茶色のチェックのズボンに着替えたルイが黒いキャップ帽を被りながら、戻ってくると、カスミに手を差し出した。


「この世界におかえり、一条」


 きょとんとしたがすぐにカスミは笑顔になって、ルイの手を取った。


「ただいま、ルイくん! ルイくんもおかえり!」

「……ただいま」


 ルイは帽子を深く被ると、カスミの手を引いた。


「暗くなる前に送るよ」

「魔法は?」

「魔法を使わなくても、同級生を一人、家まで送ることはできるよ」


 家の扉を開けて、門をくぐる。

 林を抜け、住宅街を抜け、商店街を抜け、小学校の前を通り過ぎると古民家を目指す。


「ねぇ、ルイくん」


 カスミは手を繋いだままの彼に話しかけた。


「私、またルイくんの家に行っていいかな?」


 このワクワクは、絶対に手放したくないとカスミは思った。


「私、また他の世界に行ってもいいかな?」


 古民家の前でルイとカスミは足を止めた。

 洋風の魔法使いのとんがり頭みたいな家とは似ても似つかない木造建築と黒の瓦屋根。一階だけの広い家の前で二人はお互いの目を見た。


「俺がさ迷い人、とか、なんか変なものを持ってるとか、今日見た色々なもの……」

「魔法のこと?」

「……うん、もう魔法でいいや。魔法のことを誰にも話さないって約束できる?」


 考えることもなく、カスミは首を縦に振った。


「うん! こんなすごいこと、他のクラスの子たちに知られたら、大変なことになるから、誰にも言わないよ。黙ってたら、他の世界に連れてってくれたり、魔法を見せたりしてくれる?」

「危険だから、俺がいる時ならいいよ」


 ルイは笑った。

 カスミはぱぁっと目を輝かせると繋いでいた手を離して、小指を差し出した。


「約束ね!」


 二人は小指を絡めて、それを振った。


「ああ、約束」


 小指が離れると、ルイはカスミに背を向けた。


「また明日、学校で会おうねー!」


 カスミが手を振ると、振り返ったルイは軽く手を振り返した。

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放課後異世界ピクニック 砂藪 @sunayabu

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