第2話 不思議なクラスメイト


「本当に魔法使いに会ったの!」

「カスミちゃん、今日、ずっと言ってるー。魔法使いなんてもう古いって。私たち、来年にはもう中学生なんだよ?」


 クラスメイトの石狩いしかり頼子よりこにため息をつかれて、カスミは頬を膨らませた。


「私たちが小学生でも中学生でも、魔法使いはきっといるから!」

「はいはい、カスミって本当に魔法が好きだよね。一時期、真似事もしてて付き合わされたよね。黒魔術の」

「頼子ちゃんが付きあってくれたのはこっくりさん! 黒魔術じゃないよ! それにあの時は私が誘ったんじゃなくて、さっちゃんが……」


 頼子は肩をすくめた。そんな細かい話はどうでもいいのよ、と言わんばかりに。カスミは頬を膨らませた。

 コスモスの柄のハンカチで手を拭いていた頼子はやれやれと首を横に振った。


「青い傘は知らないけど、短い茶色のチェックのズボンにサスペンダーの男子なら一人いるじゃないの」

「え?」


 カスミは白いハンカチで手を拭くと、教室の前まで先に行ってしまった頼子のことを追いかけた。


「ああ、今日も他の女子に囲まれて見えてないか。ほらほら、あそこの中心にいる」


 開いた教室の扉から頼子が教室の一番後ろの席の周りに集まっている五人ほどの女子の中心のいる男子を指さした。

 彼のことならクラスメイトだから、カスミも知ってる。

 古八こはちルイくん。

 両親が海外の人みたいで、白いサラサラの髪に紫の瞳を持っている。カスミがあまり彼と話したことがないのは、いつも彼がクラスの他の女子に囲まれているからだった。


「あっ、ほんとだ」


 囲まれている女子の間からルイのことを見ると、確かに今朝カスミが見た白いシャツにサスペンダーをつけている。その服装は確かに青い傘の下にいた少年のものだった。


「じゃあ、ルイくんは、魔法使い……?」

「はいはい、魔法マニアさん。古八のことが気になるのは分かるけど、近づいたら、他の女子が黙ってないよ。今、このクラスの女子の間では協定が結ばれてるんだから」

「きょうてい?」

「古八ルイはみんなのものっていう協定!」


 頼子は、ハンカチをポケットの中にしまいながら、やれやれと首を横に振った。彼女はよく「やれやれ」という表情をする。その大人びているみたいな行動もいつものことなのでカスミは特に気にしなかった。

 頼子はじっとルイのことを見るカスミの手を引いて、前の方の自分の席へと戻った。


「魔法使いと、お喋りできる機会かも……」


 頼子の忠告は聞いたものの、魔法マニアのカスミはどうしてもルイに接触したいと考えていた。彼女の表情から頼子は自分の忠告は役に立たないと分かり、ため息をついた。

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