ものぐさの記

沖方菊野

ある国の種

湿気った土に

貴方は種を蒔きました


湿った土を掘り返し

丁寧に優しくそっと

種を蒔いたのです



その国はいつも太陽が昇りません

雨か雪か或いは曇りか


ずっとずっと、長い間

月が空を支配してきました



だから

丁寧に種を蒔いて世話をしても


実る可能性は


ほぼありません



けれど貴方はその種を

一生懸命に世話をします


花が咲くように


実をなすように


丁寧に丁寧に


期待をし


心をこめて世話をします



貴方の温かい心は

やがて湿った大地を乾かし

発芽を許されなかった憐れな種の

殻を破るのです



種は貴方の眼差しにふれ

その芽を


力いっぱい


ぐんぐんぐんぐん


伸ばします


必死で必死に月を目指し

その身をぐんと伸ばします


貴方の期待に応えるために



けれど


やはり種は憐れなままでした



どれ程

その身を伸ばそうと


彼の期待に応えようと


美しい花を咲かせ実をなそうと



彼に愛されないのだと気づけなかったから


種は憐れなままでした



そうして

その国もまた、太陽を知りません


雨や雪がやみ、鉛の空が明けるということを知りません



やはり

何も変わらなかったのです



結局


何も


変わりません



月は広い空を支配し


涙で大地を濡らすだけ


ただただ大地は濡れるだけ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る