こうふくの村

むかしむかし 王がおりました





豊かで豊かな村の王です





小さく小さな村の王です






いつから王が王だったのか   誰も覚えてはいません




王はいつからか王だったのです




ある日、子供が問いかけます





「あなたは本当に王なのですか」





王は叫びます






「ここに悪魔がいるぞっ」





村人は王の言葉に怯え   火の中に子供を投げ入れます




王は村人たちに褒美を与えました





手渡されたのは     こすれば剥がれる金の皿





人々は王にかんしゃを示し日常へと帰ります





ある日、女が日記を落とします





たまたま広がるページに書かれた文字




「戦おう」







それだけを見た王は叫びます








「反逆者がいるぞっ」






人々の目には王が示す文字しか映りません





投げ捨てられた日記に尻目も向けず






人々は女を串刺しました









王は村人たちに褒美を与えます









「我が皆を守ろうぞ」









王には兵隊などありません








しかし人々は








心優しき王だと    はりぼての加護にかんしゃを示します











異端者はその村を笑います









狂人は その村に近づきません










魔女も悪魔もおかしなものも








王が侵入を許しません









守られている人々は しあわせでした









豊かな村は ゆたかな村だったからです









豊かな村は こうふくな村だったからです










ある日  王は叫びます







「敵が来るぞっ」






村人たちは怯えます








先のない剣を鞘から抜かず






高々とそれを掲げた王は   声を荒げ叫びます







「家に籠もれっ」






村人たちは我先にと家に逃げ込みますが





どれほど待っても敵の気配はありません







ですが王の言葉もありません








人々は王を信じています









食料が尽きます







水が尽きます







堪えきれなくなった羊飼いはドアから顔を覗かせました






彼は叫びます






「王が戦っておられるっ




敵はまだまだ来るぞっ






全てを塞げっ」







人々はドアを中から打ち付けました






たった1枚の窓も      小さな抜け穴までも





余すことなく木を打ちました






羊飼いは自由に外を出歩きます







賢い彼を王は特別に扱ったのです









人々は王を信じて籠ります







人々は叫びを信じて籠もります








日の光が足りなくなった人々は





くるくるまわる世界のなか






懸命に王の言葉を待ち続けます






誰かの言葉を待ち続けます








王は幸せです









羊飼いも幸せです







村人たちが一生懸命であるからこそ






幸せでした












彼らの幸せは永遠







王がいるかぎり







羊飼いが物音を立てるかぎり







人々がドアを開かないかぎり







みんなみんな       こうふくです






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