異世界転移において、意外と盲点とされている事実。
それは、充実した『インフラ』が存在しないであろうこと。
異世界には夢があり、冒険してちやほやされて、というのが定番ですが、やっぱり文化が違えば厄介も生まれる。
本作はそんな「現実」の一つをしっかりと提示してくれます。
主人公であるリカは湖で入水自殺を図る。その先で転移したのは思い描いたような異世界ではなく、田園風景の広がる「数十年前の田舎」となっていました。
お風呂も自由ではないし、トイレに行きたかったら家の外までわざわざ出なければならない。水も自由に飲めないし、日々の生活に必要な水の確保のためには毎日汲みに行かねばならない。
現代知識で無双するとか、そんなことを考える余裕なんてない。あまりに生活が不便すぎて、日々に追われるという現実が待っています。
いわゆるナーロッパのような世界も、本作と同じ文化水準と見られます。
本作を読めば、剣と魔法のファンタジー世界などよりも、自分たちが普通に生きている現代社会の方がずっと魔法に満ちているかのように思えてきます。
自分自身が無双して世の中を変えようとしなくても、既に誰かがそれをやってくれている。そのことって実はとっても素晴らしいんじゃないか。そうした事実を見つめ直させてくれる、とても素敵な物語でした。
異世界転移と思いきや、タイムトラベル物でした(笑)
入水のすえに主人公がたどり着いた先は、なんと、ひいおじいちゃんの家!
若者達には新しく、そうでない方には懐かしい。ボットン便所や五右衛門風呂をとくとご堪能あれ。
素朴なご飯も美味しいよ!
田舎に行けば50年前には普通にあったこんな風景。今では異世界なんですねえ。
冬の朝、お湯で顔を洗うことが贅沢であることを、うん、忘れていたよ、私も。
それにしても。
こんな短編で主人公が成長する物語をスルッと書くとかってさ!
うすうす知ってましたが、筆者、恐るべき手練れですよ!!
なにはともあれ、面白いのです。
筆者独特のトボけた語り口調の良さが遺憾なく発揮された傑作と申せましょう。
まず、本文が短いので何度も読み直せるし、何度も読み直して価値がある話だと思う。
僕は、この話を読んで勇気を貰えた。
主人公のリカは、友達? のユーリと共に夜の奥多摩へと出かける。
文脈から察するに、みんなで自殺するイベントだろう。
もしかするとイベントの触れ込みは「異世界に行ける」とか上手いこと言って集めたのかもしれない。
湖に飛び込んだリカは、異世界転生ではなく、ひい爺ちゃんの住む田舎に来てしまう。
そこでリカは、決して便利とは言えない、自分で何でもしなければならない不自由な生活をすることになる。
正直、この歳の子に地に足をつけろと言っても、理解できないかもしれない。
だけれども、僕みたいに社会人になって何年も経ってからこういう話を読むと、もう一度自分の生活を見直してみようかなという気になる。
何故ならば、SNSに流れてくるのは明らかに凄い人の活躍だったり、戦争で破壊される街並みだったりと、どんどん自分の足が宙に浮いていってそもそも自分が地面に立っていたことを忘れそうになるから。
凄く、真面目で堅苦しいレビューで見苦しいかもしれませんが、自分が分からなくなったら、一度今の自分を見つめなおしてみよう。そう思える作品でした。
オカン🐷さんの作品「こんなんじゃない! 王子様との婚約は? 宮殿はどこにあるの? 異世界に転移すると思ったらとんでもない所に来ちゃった。か、帰して、お家に帰して。」は、異世界転移を夢見る少女たちが織りなす、予想外の展開が魅力的な作品です。異世界の華やかな宮殿や王子様とのロマンスを夢見ていた梨花が、現実的な古民家での生活を強いられることになり、戸惑いながらも成長していく姿が描かれています。
特に注目すべきは、梨花が直面する古民家での生活のリアルさです。井戸水や手洗いでの洗濯、藁での草履作りなど、昔ながらの生活のディテールが丁寧に描かれており、読者はまるでその場にいるかのような臨場感を味わえます。
一方で、物語はただのスローライフに留まらず、現代と繋がる謎や人間関係のドラマも絡んでくるため、飽きることなく読み進められます。
「こんなんじゃない!」というタイトル通り、予想外の展開と心温まるエピソードが詰まったこの作品は、異世界転移の夢と現実のギャップを楽しみたい読者におすすめです。梨花の成長とともに、読者も一緒に新しい視点で世界を見つめることができるでしょう。