ネコとカラス~星に捧げる約束のウタ~
ドスジャン
歌うネコと、名の無いカラス
①
あるところに一匹のネコがいました。
名前はヒメといいます。ヒメはとても美しいネコでした。
純白といっても過言ではないほど美しい毛色。サラサラとした綺麗な毛並。まるで宝石のように美しく輝く緑色の瞳。スラリと伸びた足。ヒメは誰もがうらやむような美しさを持っていました。
当然、周りにいるオスの猫達が、ヒメの事を放っておく訳がありません。
ヒメの元には毎日のように色々なオスの猫達が、愛の言葉を告げるためにやってきました。
しかし、オスの猫達がヒメにいくら愛の告白をしても、ヒメはそれを受け入れませんでした。なぜならヒメは、自分と飼い主のちとせちゃん以外には全く興味がなかったからです。
ヒメにはオスの猫たちが、なぜ自分にそんな言葉を告げるのかが分かりませんでした。好きだとか、愛しているだとか、そんな言葉を言われても、ヒメにはオスの猫たちの気持ちが分からないのです。その言葉が信じられないのです。
きっと、オスの猫たちがヒメに想う好きという気持ちは、ヒメがちとせちゃんの事を好きだと思う気持ちとは別なはずです。彼らの態度を見ていればヒメにもそれくらいは分かります。
でも、ヒメに愛の告白をしてくるオスの猫たちは、みんなデレデレしていてとても気持ちが悪いのです。
だから、ヒメはいつも適当なことを言って場をはぐらかします。
ある時、とてもおいしい魚が食べたいと言ってみました。すると、翌日には様々な魚がヒメの前に捧げられました。
もちろんそんなに沢山の魚をヒメだけで食べきれるわけがありません。ヒメは一匹だけ魚を咥えると、ちとせちゃんのいる家に帰りました。
その魚を持ってきたオスの 猫はとても喜びました。けれど、ヒメがそのオスの猫に対しての態度を変えたりすることはありませんでした。
なぜならヒメは何も考えずに選んだだけだから。誰が持ってきたのか。どんな気持ちでそれを持ってきたのか。そんなことには全く興味が無いのです。
しばらくすると、オスの猫たちはヒメに愛の告白をしなくなりました。
どれだけ想いを伝えても、どれだけヒメの願いを叶えようとも、決してヒメの心が自分達に向くことはないと悟ったからです。
ヒメは、うるさい連中が来なくなって良かったと思いました。
やっと一匹きりになることが出来たので、ヒメは近くにある大好きな公園に向かいます。
ヒメはベンチに飛び乗り、空を見上げます。空は雲一つ無い青く綺麗な色をしていました。まるで今の自分の心のようだとヒメは思います。
ヒメは小さな声で、何かを口ずさみ始めました。
その声は少しずつ、少しずつ大きくなっていきます。美しいその声は、空に消えていきました。けれどヒメは気にすることなく声を出し続けます。
ヒメは歌う事が大好きだから。どれだけ空に声を吸い込まれても気にしたりしません。一生懸命、声を出して歌います。
その歌声は、近くで歌っていた鳥たちが歌うことをやめて聞き入ってしまうほど、美しく透き通った綺麗な声でした。
何十分、いえ、何時間もヒメは歌い続けました。気がつくと、太陽は顔を隠してしまい、空には星が輝き始めていました。
ヒメはちとせちゃんが心配するので家に帰ります。本当はもっと歌っていたかったけれど、大好きなちとせちゃんを心配させるわけにはいきません。
もっと歌いたいという気持ちを抑えると、ヒメは家に向かいトコトコと足を進めました。
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