カラスの願い、ネコの願い

 ヒメはシロに会うため、毎日のように公園へと向かいました。晴れの日も、雨の日も、風が強い日も。どんな日でも、シロに会うため公園へと向かいました。

 その度に、シロは面白い話をしてくれました。毎日、素敵な話をしてくれました。ヒメの住んでいる家よりも、もっと大きな魚と友達になった話。空を飛んだネコの話。他にも色々な話をしてくれました。

 ある日、ヒメがシロに言います。

「ねぇシロ。いつもボクに素敵な話をしてくれるよね。ボクね、シロにお礼がしたいんだ。なにかボクに出来ることはないかな?」

 すると、シロはヒメの頭を翼で撫でながら言いました。

「ヒメは僕に名前をくれたじゃないか。それだけで充分だよ」

「でも、何かしたいんだ。ねぇ、シロ。どうしたらシロはうれしいの? どうしたらシロは喜ぶの?」

 ヒメは尋ねます。ヒメはシロに何かしてあげたくて仕方ないのです。シロのためならなんだってしてあげたいのです。シロの喜ぶ顔が見たいのです。

「……そうだね。じゃあ歌を歌ってくれないかい? 僕はヒメの歌がとても好きなんだ。ヒメの歌が聴けたら、僕は凄くうれしいよ」

「わかった!」

 ヒメはそう言って頷いた後、すぐに歌い始めます。シロのために精一杯声を出して歌います。

 なぜだかは分かりませんが、ヒメはいつもより気持ちよく歌うことが出来ました。いつもよりも上手に歌うことが出来ました。それはきっと、自分の為ではなく、誰かのために歌っているからかもしれません。

 公園にはヒメの歌声が響きます。

 それは、どこか優しくて、美しくて、温かい歌声でした。

 ヒメは懸命に歌います。シロのために歌います。ヒメがシロの方を見てみると、シロが心地よさそうに優しく微笑んでいました。ヒメはとてもうれしくなりました。とても温かくて優しい気持ちになりました。

 ヒメが歌い終えるとシロが言いました。

「ありがとう、ヒメ。とても素敵な歌声だったよ。ヒメさえ良かったら、また僕のために歌ってくれないかい?」

「うん! ボクは歌うよ! シロが喜んでくれるのら、いつだって、どんなときだってボクは歌うよ!」

 得意げにヒメは言いました。そんなヒメを見て、シロが優しく微笑みます。

 シロの笑顔はいつもヒメを優しい気持ちにしてくれます。見ているだけで、うれしい気持ちになります。それに、胸の辺りがキュンとなります。痛いような、うれしいような、恥ずかしいような、とても不思議な気持ちでした。

「ねぇシロ。シロはボクのこと好き?」

「急にどうしたの? もちろん好きだよ」

 シロが少し恥ずかしそうにそう答えました。好きという言葉を聞いて、ヒメはとてもうれしくなりました。

「ボクもね、シロのことが好きだよ。大好きだよ!」

 ヒメは思います。こんな日がずっと続けばいいな。シロとずっと一緒にいれたらいいな。と。

 けれど、その願いは簡単に壊れてしまいました。その日はある日突然、何の前触れもなくやってきたのです。

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