カラスの願い、ネコの願い
⑥
ヒメはシロに会うため、毎日のように公園へと向かいました。晴れの日も、雨の日も、風が強い日も。どんな日でも、シロに会うため公園へと向かいました。
その度に、シロは面白い話をしてくれました。毎日、素敵な話をしてくれました。ヒメの住んでいる家よりも、もっと大きな魚と友達になった話。空を飛んだネコの話。他にも色々な話をしてくれました。
ある日、ヒメがシロに言います。
「ねぇシロ。いつもボクに素敵な話をしてくれるよね。ボクね、シロにお礼がしたいんだ。なにかボクに出来ることはないかな?」
すると、シロはヒメの頭を翼で撫でながら言いました。
「ヒメは僕に名前をくれたじゃないか。それだけで充分だよ」
「でも、何かしたいんだ。ねぇ、シロ。どうしたらシロはうれしいの? どうしたらシロは喜ぶの?」
ヒメは尋ねます。ヒメはシロに何かしてあげたくて仕方ないのです。シロのためならなんだってしてあげたいのです。シロの喜ぶ顔が見たいのです。
「……そうだね。じゃあ歌を歌ってくれないかい? 僕はヒメの歌がとても好きなんだ。ヒメの歌が聴けたら、僕は凄くうれしいよ」
「わかった!」
ヒメはそう言って頷いた後、すぐに歌い始めます。シロのために精一杯声を出して歌います。
なぜだかは分かりませんが、ヒメはいつもより気持ちよく歌うことが出来ました。いつもよりも上手に歌うことが出来ました。それはきっと、自分の為ではなく、誰かのために歌っているからかもしれません。
公園にはヒメの歌声が響きます。
それは、どこか優しくて、美しくて、温かい歌声でした。
ヒメは懸命に歌います。シロのために歌います。ヒメがシロの方を見てみると、シロが心地よさそうに優しく微笑んでいました。ヒメはとてもうれしくなりました。とても温かくて優しい気持ちになりました。
ヒメが歌い終えるとシロが言いました。
「ありがとう、ヒメ。とても素敵な歌声だったよ。ヒメさえ良かったら、また僕のために歌ってくれないかい?」
「うん! ボクは歌うよ! シロが喜んでくれるのら、いつだって、どんなときだってボクは歌うよ!」
得意げにヒメは言いました。そんなヒメを見て、シロが優しく微笑みます。
シロの笑顔はいつもヒメを優しい気持ちにしてくれます。見ているだけで、うれしい気持ちになります。それに、胸の辺りがキュンとなります。痛いような、うれしいような、恥ずかしいような、とても不思議な気持ちでした。
「ねぇシロ。シロはボクのこと好き?」
「急にどうしたの? もちろん好きだよ」
シロが少し恥ずかしそうにそう答えました。好きという言葉を聞いて、ヒメはとてもうれしくなりました。
「ボクもね、シロのことが好きだよ。大好きだよ!」
ヒメは思います。こんな日がずっと続けばいいな。シロとずっと一緒にいれたらいいな。と。
けれど、その願いは簡単に壊れてしまいました。その日はある日突然、何の前触れもなくやってきたのです。
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