②
ある日のことでした。
ヒメが公園で歌を歌っていたときです。どこからか声が聞こえました。
「君、凄く綺麗な声をしているね」
びっくりしたヒメは、歌うのをやめて辺りをキョロキョロと見回します。しかし、声の主らしき存在は見つかりません。
「だれ? 何処にいるの?」
ヒメは声の主に、そう問いかけます。
「君の後ろにある木の上を見てごらん。僕はそこにいるよ」
言われたとおりに後ろの木の上を確認すると、枝に一匹のカラスが留まっていました。
ヒメは前足をグッと伸ばし、カラスを威嚇します。なぜだかは分かりませんが、ヒメは鳥を見ると無性に襲いたい気持ちになってしまうのです。
「ちょっと落ち着いてくれないかな? 僕は君と話をしたいだけなんだ」
「嫌だ。君と話す事なんて何もないよ」
ヒメがそう言った後、カラスは翼を二度ほどばたつかせました。
するとカラスの翼から、七色に輝くとても綺麗な一枚の羽が落ちてきました。ヒメはそれを見て不思議に思います。カラスの羽は真っ黒なはずなのに、なぜこんなにも綺麗な羽が落ちてきたのかと。
「どうだい? 凄く綺麗だろ? それはね、とっても遠い国にいる鳥の羽なんだ」
「確かに珍しいけど、それがどうしたのさ」
「僕がどうやってその羽を手に入れたか知りたくないかい? とっても面白い話だよ」
「別に……どうでもいい」
そう言うと、ヒメは目の前に落ちた七色の羽を前足でスッと払いのけました。それを見て、カラスが悲しそうな声で大袈裟に言います。
「ホントにどうでもいいの? とてもとても面白い話なんだよ? あんなに面白い話を教えてあげることが出来ないなんて、すごく残念だよ。ああ……素敵で面白い話なのに……」
あまりにも面白い面白いとカラスが言うので、ヒメは少しだけその話が聞きたくなってしまいました。
その後もカラスは巧みにヒメへ言葉をかけ続けます。とうとうヒメは我慢することが出来なくなり、言いました。
「その話……聞いてあげても……いいよ」
それは、まるで蚊の鳴くようなか細くて小さな声でした。けれど、その声はカラスに届いたようです。
「やっと聞いてくれる気になったんだね。じゃあ話させてもらうよ――」
「ちょっと待って。もし、その話が面白くなかったらどうするの? ボクは歌を歌いたかったんだ。その時間を君は奪ったことになるんだよ。その責任はどうとるのさ?」
「うーん……そうだね。ちょっと待ってて」
そう言うと、カラスは足を止めていた木の枝から足を離し、ヒメの前に飛び降りました。そしてカラスは続けて言います。
「もし、面白くないと思ったら、その瞬間、僕を食べてしまえばいい。僕は君の目の前にいる。だからいつでも食べることが出来る。どうだい? これじゃ駄目かな?」
「駄目だよ。だって君、全然おいしくなさそうだもん」
「なるほど。確かにそれもそうだね。でもね、実は僕、とっても珍しいカラスなんだ。僕を食べると、とっても歌が上手くなるんだ。どう? 悪くない話だろ?」
ヒメは少し考えます。今よりも歌が上手くなるのなら、とてもうれしい気持ちになるはずです。だから、今すぐカラスを食べてしまえばいいんじゃないかと思いました。
けれど、面白い話が聞いてみたいとも思っていました。だからヒメはこう考えます。面白くなくても食べればいいし、面白くても、話を聞いた後にこのカラスを食べてしまえばいいや――と。
「うん。分かった。もし、少しでも面白くないと思ったら、遠慮無く君を食べさせてもらうから」
「交渉成立だね。それじゃあ、話を始めるよ――」
そう言うと、カラスは七色の羽をどうやって手に入れたのかを、ゆっくりと語り始めました。
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