カラスは話をすることになれているのか、すらすらと話し続けます。

 可笑しそうに話したり、怒ったように話したり、悲しそうに話したりします。まるで、カラスの話の中にヒメ自身が入り込んでいるかのような気持ちになってしまうほど、カラスの話し方は魅力的でした。

 ヒメは、話の先が気になる度に、ヒゲをピンと張り、目を輝かせながらカラスの話に耳を傾けます。

 きっと面白くないだろうと思っていたカラスの話はとても面白く、ヒメはその話を夢中になって聞いていました。カラスを食べてしまおうと思っていたことなんて、すっかり忘れてしまうくらいに。

 カラスには羽があるから遠くの国へと行くことが出来ます。ヒメには絶対に行くことが出来ないような場所へだって行くことが出来るのです。だからこそ、ヒメはカラスの話に夢中になったのでしょう。

 カラスの語った話は、遠い国にいる虹色に輝く羽を持った鳥の王様の話でした。それはヒメの全く知らない世界で、聞くことすべてが新鮮で、本当に楽しくて、すごく面白かったのです。

「どうかな? 面白かったかい?」

 そう言ったカラスに、ヒメは目を輝かせながら頷きます。

「凄いよ! とっても面白いよ! この綺麗な羽は、鳥の王様の羽だから綺麗なんだね。王様は凄い。でも、この羽をもらった君は、もっと……もっと凄いと思うよ!」

 ヒメは目の前にある七色の羽をうっとりとした目で見つめ、カラスを誉め称えました。

「ねぇ、他に面白い話は無いの?」

 ヒメはカラスにそう尋ねます。

「あるよ。まだまだ沢山あるよ。君さえ良ければいくらでも話してあげる」

 そう言って、カラスは優しく微笑みます。

「ホントに? ホントに?」

「もちろん」

 その言葉にヒメはとても喜びました。今すぐにでも他の話を聞きたいと思いました。けれど、いつの間にか太陽は半分ほど顔を隠し、空は暗くなり始めています。

 そろそろ家に帰らないとちとせちゃんが心配してしまいます。だからヒメは家に帰らなくてはいけません。だからヒメは言いました。

「今日はもう帰らないと駄目なんだ。話を聞くのは、明日じゃ駄目かな?」

 心配そうにヒメは尋ねます。するとカラスは言いました。

「全然構わないよ。明日も僕はこの場所にいるから。だからいつでもおいで」

「ありがとう! じゃあまた明日ね」

 そう言うと、ヒメは体を後ろへと捻り、勢いよく走り出しました。

 でも、すぐに足を止ました。ヒメはもう一度体を後ろに捻り、カラスのいた場所に体を向けます。そして大きな声を出して尋ねました。

「ボクはヒメっていうの。君の名前はなんて言うの?」

 でも返事はなかなか返ってきませんでした。ヒメはカラスのことが心配になり、カラスのいる場所に戻ります。

 ヒメが心配そうにカラスを見ていると、悲しそうにカラスは言いました。

「……僕には名前がないんだ。面白い話は沢山知っているけど、自分の名前は分からないんだ。可笑しいだろ?」

「そんなことないよ!」

 ヒメは、何度も首を横に振りました。そしてヒメは言います。

「だったらボクが君の名前を考えてあげる! 面白い話をしてくれたから……素敵な話を聞かせてくれたから……だから、そのお礼に君の名前を考えてあげる!」

「……ヒメは優しいんだね。ありがとう。楽しみにしてるよ」

 カラスに名前を呼ばれたとき、ヒメはなんだかとてもうれしいような、恥ずかしいような不思議な気持ちになりました。今まで感じたことの無いその気持ちが、なんなのかは分かりませんでした。けれど、決して悪い気持ちではなかったので、ヒメは気にしないことにしました。

「じゃあまた明日。素敵な名前を考えてくるから楽しみに待っててね」

 そう言うと、ヒメは体を後ろに捻り、家へと向かい走り出しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る