三 級友の声
実家近くで小さな交差点の信号で停まってしまった。
ぎりぎりで通過出来ると思ったのだが。
「大雅君!」
声だけが、また聞こえた。
「助けて!」
いつもにも増してはっきりと。
窓は閉めているのに。
卒業アルバムの、一人だけ画質の悪い写真を思い出す。
そうだ。
この声は梶本さんだ。
振り返る。
白い車がいた。
ドアが閉まろうとしている。
行かないと。
何も確認はないけど。
信号は青になった。対向車は無い。
交差点で車をUターンさせる。
目を。
離すな。
間に合え。
不安。
焦燥。
嫌な予感。
白い車は凄い加速で走り去ろうとしていた。
こちらもアクセルを踏み込んで、加速する。
ギアを上げる。
今ならまだ追いつける。
もう何も分からない自分じゃない。
もう何も出来ない自分じゃない。
それに応えるようにエンジンは唸りを上げる。
誰もいない住宅街を走り抜けた。
目の前に車が見えてくる。
突然左に曲がった。
急いで速度を落として私も左に曲がる。
友達の家の近くだ。道が狭くて向こうもこちらもゆっくりとなった。
見覚えのある道だが、車で通るとこんなにも狭かったんだとびっくりする。
妙なところで曲がった。そこは自動車工場が昔あった場所だ。近所のお兄ちゃんの家が経営していたはずだ。
怪しく思って、その前で停める。
首を傾げた。そこにはモダンなデザインのアパートが立っていた。自動車工場の跡形もない。
確かに近くの道の形も、カーナビが示す場所は間違いなかった。
あの車はどこに入っていったのか……。車を出して、あたりの交差点を一通り確認してみたが、どこにも白いセダンはいなかった。
見失ったものは仕方ないので、諦めて家に帰ろうと考えたところで、ハンドルを反対方向に切る。
やはり、あの場所はアパートが建っている。
白いセダンはもうどこにも見つからない。
少し空がほんのりと橙色に染まりはじめた。
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