一 夏の声
「夏休みだあ!」
そう言って友達と下駄箱から門まで一気に走り抜けていく。そのまま近所の公園に集まって遊んでから家に帰った。
夏休み最初の日は一日中宿題をやると決めている。宿題の内容は、漢字の書き取りと計算ドリル、理科と社会の問題集、読書感想文、自由研究か自由工作のどちらか、リコーダーの練習。それに一行日記。早く終わりそうものから順番を手を付けて、最後の方のページだけ残して片付ける。そして、八月の終わりに残りをやる。先生が昔、夏休みの最初の方に宿題を全部やってしまって、休みが終わったら全部忘れてしまっていたという話があったのでこのやり方を考えた。全部を夏休みの最後の方にやってしまうともしかしたら終わらないかもしれないし、最終日に大量の宿題を親や友達とかに泣いてお願いしてやってもらうというはよく聞く話だ。
七月二十日〈一日中宿題をやった。算数と理科はほとんど終わった。〉
七月二一日〈漢字の書き取りをやった。〉
読書感想文の本を探すために図書館に行った。
選んだ本は『大人に帰る道』。主人公が子供の頃にタイムスリップしてしまうSF。そこで過去の失敗した出来事を変えようと子どもの頃の自分に接触するけれども、そもそも自分が元いた時間に戻れなくて子供の頃の自分は同姓同名の別人となってしまう話だった。人生そんなにうまくは行かないという事がテーマなんだと思う。
本を読み終えて、図書館に向かう時、名前を呼ばれた。
「××君!」
でも、振り返った時には誰もいなかった。
「助けて!」
あたりを見回して探したけれども、やっぱり誰もいない。
ツクツクボウシの鳴く声だけがふと、聞こえてきた。この夏最初のツクツクボウシかもしれない。
八月五日〈図書館に本を返してきた。今年初めてツクツクボウシの鳴き声をきいた。
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