七 再びの声

 「大雅君!」

 車に乗り込もうとしたところで、名前を呼ばれて振り返る。まだ終わらないのかと思ってため息をついてしまった。

 また声だけかと思った。

 「大雅君!」

 さっきより強い声色に気を止めて、振り返る。

 そこにいたのは同い年ぐらいの女性。

 いきなりめまいがして、足許がふらついた。

 転けそうになる前に車にもたれた。

 これは、何度目の夏なのだろうか。

 どれだけ繰り返したのだろうか。

 そんな予感が背筋を走る。

 蝉が鳴くほどに暑いのに、寒気がした。

 「梶本さん……?」

 「ぼけてんの?」

 「ごめん、いつぶりだっけ?」思わず尋ねた。

 「えーっと、十五年ぐらい?」

 「そうか……」

 「どうしたの?」

 「疲れてるんだ」

 「大丈夫? 送ろうか?」

 「車があるから大丈夫。座らせて」

 運転席に座り、眉間に手をあてて考える。温くなってしまった珈琲で少し体を醒ました。

 カーナビの示す場所に間違いはない。

 ただ、今はいつだ。

 「梶本さん、今年って何年だっけ」

 「え?」車の横に立って、遠くを見ている彼女は目が点になっている。

 「いや、ごめん」そう言ってスマホを確認した。

 「あの時、助けてくれたからもう大丈夫だよ。今度は迎えに来てね」そう言って、QRコードを画面に出した携帯を出してきた。

 「お、おう」すぐにコードを読み取ってそのIDを友達登録した。

 「今はまだ無理だから、待ってる」

 「いつになればいい?」

 「それはまだ分からない。また思い出した時に連絡ちょうだいよ」

 「分かった」

 「じゃあね」彼女はそう言って車とは反対方向に歩き出した。

 車を出す。

 ミラーに二人の子供が見えた。近所の道ですれ違った二人だ。手を振っているよう見えたので、片手を窓から出して応える。


  八月十六日〈公園で同じ名前のおじちゃんと会った。顔も似ている気がした〉

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