青春ケミストリー 恋愛とミステリーとの化学反応に魅せられて


この物語を一言で表すとしたら『ケミストリー』という言葉を選びたい。

意味として化学(反応)や相性、また、協調関係のニュアンスで使われる表現。

学園生活で過ごす青春の場面という日付のページをめくる度、主人公の【﨑里裕佳子】の成長を含め、その意味合いが恋愛だけでなくミステリーとしても次第に色濃くなっていくのだ。

たとえるなら、炎色反応のように様々な色合いで金属片を燃え上がらせるように、生徒の意欲を高まらせ、教育熱として温かい心で迎える化学の先生との関わり合いと成長とがある。

さらには、はじめは疎に撒かれ、点在する人間関係の立ち位置を、まるで有機的な結びつきから不可逆的な化学反応を経て得られた、男女の深い絆と人情のなり行く先まで。

様々なケミストリーを体感しつつも、やがて胸中を埋める時を超えたすれ違う想いに、沸き起こるいかんともしがたい恋情は、絶対に見逃せない。

自分の中に、自分でない自分の記憶が突如として現れる超常的な感覚も、ホラーとミステリーとの親和性のなせる技なのだろう。

謎解き要素も、やがては明らかになっていくその先を、実験的な探究心にも似た衝動が躍動していく面白さがある。

心の中の化学反応は、読後感という退行していく燐光のように、瞼の裏が覚えた熱の記憶として、しばらく止みそうにない。

【 作家は処女作に向けて成熟する 】という言葉があるように、すべての核となるエッセンス――その出発点は、まさしく、この小説に極まれるのではないだろうか。

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