種明かし
それは冬の寒さが溶け始めた、小春日和のある日のことだった。
ふと眺めたニュースに思わず目がいった。それは「三国闘争」という言葉が聞こえたからだ。
三国闘争の運営会社である「ネットピア」の運営方針にとある問題があったのだという。ネットピアは三国闘争で月間売り上げ5億円以上を稼いでいたわけだが、人気の秘訣はプレイヤー同士が団結してミッションをクリアする「戦場」にあった。
しかしネットピアはこのプレイヤーの中にダミーを混ぜていたのだ。今までもこの手のゲームでは多かれ少なかれいわゆる「サクラ」とよばれるダミープレイヤーがいるだろうことは囁かれていた。ところがいくら「サクラ」と言っても、大多数のプレイヤーを送り込むのはさすがに無理なため、少数に限られていた。
そこでネットピアが利用したのはチャットGPTだった。多数のプレイヤーと人工知能を用意し、それぞれに個性を与えたのだ。さらに実在するプレイヤーの課金意欲を刺激するよう、ほめたり、挑発したり、とAIを細工していたことも判明した。
課金の過程には問題はない。しかし、あたかも実在するヒトのように架空のプレイヤーを混在させたことが、問題となった。ネットピアとしてはこれを踏まえ、今後はチャットGPTを利用した存在しない架空のプレイヤーについては「NPC」とつけて、存在しないプレイヤーということをわかるように対応することにした。
恐る恐る私は昔消去したアプリ「三国闘争」を再ダウンロードし、確認してみた。
「うそ……」
ぺんぎん隊にいたほとんどのプレイヤー、みとこんどりあ、DFS、猫太郎、などがみなNPCと書かれていた。みんな実在しないプレイヤーだったのだ。
だがニュースはそれだけでは終わらない。中には架空のプレイヤーに恋愛感情を抱き、関係を続けるために大量に課金してしまったプレイヤーや、チャットGPTに言われた儲け話をそのまま信じてしまって大損害を被ったプレイヤーなど、すでにゲーム内では留まらない被害が広がっていたそうだ。
私は……被害者?
確かにそれなりの課金はしていたけど、それはそれで生きがいだったし、全て嘘だったのは残念だけど、楽しめたのは事実。そもそも顔の見えない相手を信じすぎちゃいけない、というのは当然のことなのかもしれない。
それに良いこともあった。
「お待たせ」
待ち合わせ場所にやってきたスタイルのいいイケメンに私はにっこり微笑んだ。
「今日はあまり送れなかったなりね」
彼が私の額をこつんとやった。
「ガイコツのすけはもう過去の話だろ」
ネットピアのニュースが出てから私は「ガイコツのすけ」にコンタクトを取った。チャットに加わっていた中では唯一の実在する人物だった。気づけば交際が始まって、今は幸せな時を過ごしている。
(まあ、大量課金も無駄じゃなかったかもね)
今日は彼の希望で、あの時私たちが行けなかった、「とりきち」に行くことになっている。
(了)
だからオフ会はやめておいた方がいい 木沢 真流 @k1sh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます