その後、違和感がないことによる違和感

 話、通じる人なりか?


 チャットはそれだけだった。どういう意味だろう? 私が何か大事なことを見落としているため、話が通じてないということを言いたいのだろうか。私は腹が立ってきた。


武将髭:どういうことですか? 一応人間として話はできますけど。


 少し乱暴だっただろうか。返事はすぐには来なかった。それもそうだろう、これだけあからさまな怒りを個人チャットで送ったのだから。10分ほどして返事が来た。


ガイコツのすけ:髭さん、19時に桜木町にいたなりね。


 気味が悪くなってきた。こいつは何を言いたいのだろう。


武将髭:いましたけど。だって約束はそうでしたよね? 違います?


 また口調が荒くなってしまった。返事はまた10分程して返ってきた。


ガイコツのすけ:よかったなり。なんか怖くなってきたなり。念の為ここでのやりとりはギルドの人には言わないで欲しいなり。今までありがとうなり。


 その直後、ギルドのチャットに重要アナウンスが流れた。


【重要アナウンス】ガイコツのすけが「ぺんぎん隊」を抜けました。


(え? うそ)


 2年もやっているギルドでの脱会はある意味「死」に値する。

 ギルドのチャットも驚きを隠せないようだった。


ツバメ:(スタンプ:がくぜん)

猫打倒:ガイコツさん(スタンプ:涙)

みとこんどりあ:ガイコツさん、実は仕事が大変で色々悩んでたみたい。個人チャット個チャで結構相談受けてた。


 うそだ、ガイコツのすけはきっと私と一緒でオフ会に来たのだ。ただ、同じように会場に辿り着くことができず、不安を覚え、脱会したのだ。ひょっとしたら話ができる唯一のプレイヤーかもしれない、そう思った私は個人チャットをガイコツのすけに送った。


武将髭:ガイコツさん、確認したいことがあります。


 しかしその返事が返ってくることはなかった。それ以降ログインをしている形跡はなく、ガイコツのすけのゲーム内での存在意義は完全に消去された。


 私はどうすればよいのだろう。

 一応自分一人でやる毎日のゲームミッションをクリアし、夜の戦場にも参加はした。しかしチャットで発言することは止めた。髭さん来た! ありがとう、などと言ってくれることもあるが、スタンプを返すくらい。言葉を書くのは止めた。ここにいる人たちが何なのか、よくわからなくなっていたからだ。

 考えれば考えるほどよくわからなくなり、私は落ち着いていた不眠症が悪化するようになった。仕事も休みがちになってきたのもあり、三国闘争をやめることにした。最後だけは一応チャットでメッセージを書いた。


武将髭:今までありがとうございました。体調がわるいので引退します。


 そのまま「脱会」ボタンを押すと、それから私がそのゲームを開くことはなかった。次にこのゲーム、三国闘争に出会ったのはテレビのニュースだった。

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