オフ会での違和感

 集合場所には予定より少し早く着いた。ひょっとしたら店の前で誰か待ってるかもと思って、わざと知らないふりして通り過ぎた。どうせこちらの顔は割れていない。


(まだ誰もいない……か)


 他のメンバーはオフ会でお互い顔を知っている人もいる。私は1人も知らないので、少し待ってからぎりぎりで入ることにした。近くのタリィッスコーヒーでカフェラテを頼んだ。

 この通りすぎる人の中に「みとこんどりあ」さんとか「猫太郎」さんとかいるのかな、とぼんやり考えていると約束の時間5分前になったので、高鳴る胸を抑えながら「とりきち」に向かった。


「へい、いらっしゃいませー」

「あの、7時にぺんぎん会で予約している者ですが」

「はい、ありがとうございまーす」


 店員がねじりはちまきをしながら、威勢の良い声で予約帳をめくった。ぺんぎんとか恥ずかしいから、早く入ってしまいたい……。そんな思いとは裏腹に、店員は何度も何度も確認し、少し困惑した表情を浮かべた。


「えーと、ご予約は今日であってますか? 7時ですよね」

「はい」


 私は急いでゲームを開き、チャットからもう一度確認した。間違いない、日にちは今日で、時間も19時だ。


「予約、無いですか?」

「申し訳ありません、見つかりませんね。何名様でしょうか?」

「8名です」


 どういうこと? かなり焦ってきた。でもまあいい、このネタも後で話すことにしよう。

 店員は何度も確認したが、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「申し訳ありません、本日19時からのご予約は4名様と18名様のみですね」


 えっ。

 喉が締め付けられる思いだった。私はわかりました、とだけ言って店を出た。


 どういうこと? とりあえず、さきほどのタリィッスコーヒーに戻り、もう一度カフェラテを頼んだ。席について、もう一度ゲームを開いて、そこのチャットで確認しよう、そう思ったのだ。

 ひょっとして今日じゃなかったっけ? さまざまな推測が頭を過る。はやる気持ちを抑えてチャットを確認すると、私は目を疑った。


DFS:今からオフ会始めまーす!

ツバメ:いえーい(スタンプ:かんぱい)

猫太郎:みとこんどりあさん、子どものお迎えで30分遅刻( ^ω^ )


 うそ、始まってる、みんなどこ?

 時間は間違ってない、後は場所さえわかればいいのだ。私はチャットで確認することにした。


「着いたんですけど誰もいない(スタンプ:涙)場所どこですか?」


 と打とうとして、私は止めた。

 画面を見て指先から背筋まで一気に凍りつく思いがした。


piyo:髭さんも到着〜

猫太郎:美人さんでびっくり! わし、実は男だと思ってた(スタンプ:がくぜん)


(ちょっと待って、私ここにいるんだけど)


 慌てて辺りを見回した。すっかり日も落ち、外は仕事帰りの人でごった返していた。カフェの店内も学生、サラリーマン風の男性、みな各々の時間を過ごしている。周りにはそれらしき人は誰もいない。ちらっと一瞬だけパーカーの学生風の男性と目が合いそうになったが、すぐ逸らされた。


DFS:それでは「みとこんどりあ」さん以外全員揃ったので乾杯します。


 怖くなって画面を閉じた。そのまま頭を抱えて、机に突っ伏した。


「あの」


 私ははっと顔を上げた。


「はいっ!?」

「カフェラテお持ちしました」

「あ、はい」


 落ち着け私、事情が全く掴めない。私は何を間違っているのだろうか。頼んだカフェラテも全く喉を通らないまま、私はタリィッスコーヒーを後にした。

 もう一度、とりきちの前を通ってみた。確認してみるか? いや、無い予約、しかも予約名「ぺんぎん会」です、を連呼するのは明らかに不審者だ、今日は帰ろう。私は電車に揺られながら、家路についた。


 寝る前に一度だけギルドのチャットを開いてみた。そこにはやはりオフ会の楽しそうなチャットが並んでいた。


piyo:みとこんどりあさんが、飲むまで帰してくれません。

ツバメ:みとさん、酒豪(スタンプ:かんぱい)

シティ:髭さんが止めてくれなかったらガイコツさん逝ってたね(スタンプ:ニヤリ)


(私がいたことになってる。しかも行動もしている——)


 私の顔からみるみる血の気が引くのを感じた。そんな中、個人チャットとよばれる、個人宛のチャットが届いていることに気づいた。通常であれば届いてもおかしくないだろう、だって参加するはずの私がいないんだから。

 恐る恐るのチャットを見てみると、送り主は「ガイコツのすけ」だった。 


ガイコツのすけ:髭さん、話通じる人なりか?



 

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