だからオフ会はやめておいた方がいい
木沢 真流
廃課金とはゲームに大量の課金をする人のことを言う
息を切らせながら家に着くと、私はすぐにスマホをタップした。よかった、間に合った。Loading...の文字にそわそわしながら、ゲームの画面が起動するのを確認した。そしていつものようにチャット画面を開く。
武将髭:お待たせ! 今日もやっちゃうよ
そう急いで打つと、私の愛でているキャラクターを戦場に投入する。
ツバメ:髭さん来たぁーー!
猫太郎:待ってました!
そんな歓迎の声の中、私のエース、スプリンガーちゃんが相手チームのエースをボコボコにやっつけていく。このゲーム、「三国闘争」は持っている武将でチームを組んで、相手のチームを倒すゲームだった。プレイヤー同士でギルドとよばれるチームを組み、ライバルのチームを倒すと報酬がもらえる。あと一歩で私のチームは負けるところだったが、今日も私の参戦のおかげで逆転勝利だった。
piyo:髭さん(スタンプ:ぱちぱち)
私のニックネームは武将髭、通称髭と言われている。
ツバメ:やっぱり髭さんは強いなぁ
そりゃそうだ、私はこのゲームを初めて2年、毎月●十万円課金している、いわゆる廃課金者だ。彼氏もいなければ特に仲のいい友達もいない。エステもショッピングも興味がない私は、お給料のほとんどをこのゲームに注ぎ込んでいる。おかげでゲーム内では少し伝説的な存在となっている(たぶん)。
みとこんどりあ:髭さんの仕事、確かドラッグストアだったよね。マツモトヒトシだったっけ?
武将髭:そう、今日のお客さんクレームひどくてなかなか帰れなかった。あともう少しで今日の戦場に遅れるところだった。まじでふざけんなって感じ。
私が所属するチーム、通称「ぺんぎん隊」のメンバーは40名程度。実際チャットに参加するのは10名程度で、みんな顔も本名も知らない。ただ、2年も毎日のようにこうやって戦場で顔を合わせていると、下手な友人より一緒にいる時間が長い。お互いのプライベートも遠慮なく話している。
ガイコツのすけ:髭さま、どんまいなり
この少し変わったプレイヤーは都内の大学4年生。趣味は釣りで、中身はおっさんっぽい。
みとこんどりあ:店員を不満の捌け口にするなってーの
このプレイヤーは配管業、子どもは小学生。私の家の近くの薬局の工事も請け負っていた。実際に工事をしているときはこの中に「みとこんどりあ」さんがいるのかも、なんて思ったこともある。
DFS:じゃあそろそろ本題に参りましょうか。
この落ち着いたプレイヤーは通称社長、話題の内容からは年はどうやら50代くらいで、かなりのお金持ちとのこと。よく高級車を買ったとか、話す話題にお金のにおいがぷんぷんする。テレビでたまに見かける著名人と会食したりすることもあるらしい。
シティ:オフ会ですね、楽しみ〜
いよいよ来たか、と私は思った。オフ会とはこのようにネット上で知り合った人たちと実際に会う事を言う。正直私は女性だし、トラブルに巻き込まれるのもごめんなのでそんなものには全く興味がなかった。
しかしここまで毎日顔を(チャットなので顔は合わせていないか)合わせていると、もうトラブルもなにも無いんじゃないか、そう思っていた。実際このギルドでのオフ会は初めてではない。もうすでに2回ほど開催されていたようで、私は両方とも様子見だった。しかし……
DFS:今回は武将髭様も参加です、楽しみですね。
猫太郎:(スタンプ:ナイス)
正直嫌な人たちではないし、嫌だったらすぐ帰ればいい、最初はそう思っていた。またDFSさんのようなお金持ちとつながることは悪いことではないし、あわよくばイケメンとの出会いなんてものも考えなかったわけでもない。
(まあこれも社会勉強ということで)
最初は軽い思いだった。
DFS:今回の参加者は8名、今までで最大の人数になります。会場は横浜、桜木町駅から徒歩5分の「とりきち」、19時に「ぺんぎん会」の名前で予約しています。では——。
無駄なく端的に大事な情報を伝える。仕事ができそうな感じ。少し楽しみになってきた。かくして私は初めてのオフ会に参加することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます