第4話 魔物の襲撃と旅立ち
「シゲキと言ったかのう。そなたは異世界からこの地に来たのかの?」
「え? 異世界?」
「そうじゃ。ソナタの気の流れはこの世界に住む者とは異なる。私も以前、勇者と一緒に行動をしていたのじゃが、その者と同じ気の流れを感じる。あやつは日本という国から来たと言っておった」
「ぼっ、僕もその日本に住んでいます」
「やはりな。では、あの技は神が授けたもののようじゃな」
キーカは僕に信じ難い話をしてきた。彼女が言うには僕は別の世界から来た者らしい。
「もしかして、シゲキがゴブリンを倒した技のことですか? こんな感じで指を立てて、えいって」
「おお、それじゃそれじゃ。アレは神の調べ【
ハンナが両手の人差し指を立ててカンチョーのマネをすると、キーカは自信を持ってそう答えた。
「僕のカンチョーが神の調べだって? それじゃ、あの緑の小人を倒したのもその効果と言うこと?」
「そうじゃ。それに私のお尻にもしたじゃろ? それで長年かかっていた石化の効果が解けたのじゃ」
「シゲキ、村のシンボル的な石像にそんな罰当たりなことをしていたの?」
「シゲキさん、なかなか面白いことをしますね」
キーカは頬を赤らめながら、自分の石化が解けた経緯を説明した。それを聞いたハンナとハンナの母親の反応は軽蔑のまなざしも含まれていて微妙であった。
「私は長年眠りに就いていてわからないのじゃが、今の時代には魔王がいるかの?」
「ええ、いるそうです。一部の国はその魔王達と激しい戦いをしているそうですが、辺境のこの地では詳しいことはわかりません」
キーカはこの世界に魔王がいるかを尋ねた。するとハンナの母親がわかる範囲で答えた。
「そうか、なあシゲキ」
「何?」
「そなたは元の世界に帰りたいじゃろ?」
「もちろんだよ。友達にも会いたいし、お父さんやお母さんにだって」
キーカは僕に元の世界に帰りたいか聞いてきた。もちろん知らない世界に滞在する気はなく、早く元の世界に戻りたい気持ちがあったので、キーカに正直に帰りたいと伝えた。
「ならばそなたは勇者として旅立ち、魔王を討伐せねばならない。そうすれば帰る扉が開かれるであろう」
「えっ、僕が勇者になって魔王を倒すの?」
僕が魔王を倒さなければならないと聞き、ゲームの主人公にでもなった気分になった。
「ああ、そうじゃ。魔王を倒せるのは勇者しかいないのじゃ」
「何だか僕、ワクワクしてきた」
「そうか。旅立つ決心が付いたのじゃな。では私も賢者としてシゲキに付いていくのじゃ」
「え?」
「案内は必要じゃろ? といっても私の常識など500年前のものじゃがな。わははは」
「そっ、それなら私もシゲキに付いていきます。ねえ、お母さん、良いでしょ?」
僕は安易に旅立つ決心をした。これが後々後悔することになるのだが、今はゲームの主人公になったようで気分が高揚し、それ以外のことを考えられるほど余裕がなかった。キーカは当然のように僕に同行すると言い、ハンナも同行したいと名乗り出た。
「そっか、ハンナも10歳だものね。自分でそう決めたのなら私は止めないわ。でも、今日は準備とかあると思うから、もう1日村で過ごして、明日旅立つと良いわ」
「ありがとう。お母さん」
ハンナのお母さんはそう言って、もう1泊するように勧めてきた。
「じゃあ、私、早速準備してくるっ」
ハンナはそう言って自分の部屋に入っていった。
「シゲキさん、娘を押し付けるようなことをしてゴメンなさいね。ハンナは戦闘では全く役に立たないと思うけど、家事全般はしっかりと教え込んであるわ。きっとそれ以外のところで役に立つと思うから、よろしくお願いしますね」
「任せるのじゃ。私が責任を持ってお嬢さんを守ってみせるのじゃ。ちなみに私は料理などは全くダメだから期待するではないぞ」
僕の判断を聞く前に、キーカが勝手にハンナのお母さんに返事をしてしまった。
「たっ、大変だぁ」
「あなた。慌ててどうしたの?」
「ああ、それが大変なんだ。どうやら魔物の大群がこの村に迫っているらしい。今、戦えるものは武器を用意し、戦えないものは村長の家に集まるように言われてきた。お前達もすぐに準備をして村長の家に急ぐのだ。おい、キーカ。どこにいるんだ?」
「お父さん、今の話は本当?」
「ああ、本当のことだ。早く村長の家に避難するんだ。シゲキも一緒に避難するんだ」
ハンナのお父さんは慌てた様子で言った。
「ところで知らない者がいるのだが?」
「ああ、私か? 私はキーカだ。これでも賢者をしておる」
「良くわからないが、戦えるのなら手伝ってほしい。もし戦えないようなら妻達と一緒に避難してくれ」
ハンナのお父さんはキーカを見て言った。
「シゲキ、初陣じゃな。私もそなたをしっかりとサポートしてやろう」
「えっ? 僕も行かなきゃダメ?」
「当たり前じゃ。これからシゲキは多くの戦いを経験することになるのじゃ。これくらい戦えなくてどうするのじゃ」
キーカは僕を戦いに参加させる気でいるようであった。
「とにかく今は1人でも多く戦いに参加して貰えるのは助かる。では家にある武器は自由に使って良いから、手頃な物を持って集合場所に移動するぞ」
「私は武器などいらん。シゲキもいらないじゃろ」
「えっ? でも何か武器くらいは」
「必要ない」
キーカは僕に丸腰で参加するように強要してきた。
「それじゃ、シゲキくん、キーカさん、集合場所に向かうぞ」
僕とキーカはハンナの父親に連れられて、村で戦える者が集まる場所に向かうことにした。
「コイツの情報では、この村に魔物が50体程度の集団になり、この村に向かっているそうだ。我々は20人ほどしかいないが、村の者を守るために立ち上がらなければならない」
使い古された槍を持つ村長は、戦うために集まった勇敢な者の前で話をした。この村は30軒ほどが集まった小さな集落で、ほとんどが女性と老人と子供で、魔物と戦える男手は20人弱であった。それに僕とキーカが加わり20人になっている。彼らの持つ武器はお世辞にも良いものではなく、使い古された剣や槍、又は鍬などといった農機具を手に持っていた。他の非戦闘員は村の中で1番頑丈な建物である村長の家に身を寄せている。
「南から多数の魔物が接近」
「くっ、来たか。皆、村を守るため頑張ってくれ」
「「「おーっ!」」」
偵察に出ていた村人から情報が入り、ここにいる者は魔物から村を守るため南方向に移動を開始した。
「おい、おい、誰が50体なんて言ったんだ。100匹以上いるではないか」
「こんなのとどう戦えと言うんだ」
「だが、俺たちがここで踏みとどまらないと村に残してきた者達は」
偵察からの報告通りの方角から魔物が押し寄せてきたが、当初の数を大幅に上回る数の魔物がいて、その場にいた者は1人を除いて僕も含めて固まっていた。昨日、出会った緑色の小人もいたが、人の大きさを遙かに超える大きさの動物のような魔物、巨人のような魔物など様々な種類の物が確認できた。
「何じゃ、みんなビビっておるのかの? どれ、私が戦い方の見本を見せてやろうかのぅ」
そう言って、多くの魔物を目にして恐怖のため動けなくなっている村人達の前に、キーカが出てきた。
「これでも食らうが良い。魔法のオンパレードじゃ」
そう言ってキーカが変な動きをすると、爆発が起こり多くの魔物が吹っ飛んだ。そして間を与えず、炎の玉や氷の矢などが魔物に降り注いだ。
「シゲキ、奴の尻に1発お見舞いしてやると良いのじゃ」
「えっ? ぼっ、僕が」
「つべこべ言わんと、行くのじゃ」
「うわぁ」
キーカは奥で仁王立ちをしている人の倍くらいある、大きな人型の魔物を指さして言った。そして僕の背中を思いっきり押して、魔物の中に放り込んだ。
「ほら、何をしておるのじゃ。早く行くのじゃ」
「もうこうなったら、自棄だぁ。うわーーーっ!」
僕はそう言って大きな人型の魔物に突っ込んでいった。
「ぐおおおおおぉ」
「あっ、あぶねぇ」
魔物は大きな木の棍棒を持っていて、それを大きく振りかざし僕を狙ってきた。何とかそれを僕は避けて、上手く後ろに回り込んだ。
「くっ、くらえっ。うりゃぁ」
ブスリ
僕は両手の人差し指を立てて合わせ、思いっきりその魔物のお尻にぶち込んだ。
「たっ、倒したのか」
僕のカンチョーが上手く決まったようで、先ほどの魔物は大きな魔石に変わっていた。
「良くやったのじゃ。シゲキ」
「う、うん」
僕は無我夢中で魔物を倒した。その間にキーカは魔法で他の魔物達をすべて葬り去っていた。至る所に魔石が転がっている状態になっていた。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
「気をつけて行くのだぞ」
「体には気をつけてね。シゲキさん、キーカさん、娘のことをお願いします」
シゲキとキーカが魔物を排除したことで、村には再び平和が訪れた。僕たちをよそ者として排除せず、昨夜は村人全員で祝勝の宴が行われた。翌朝、僕とキーカ、それとハンナは予定通り村を旅立つことにした。ハンナは両親に別れを告げ、3人で抱き合っていた。
「お世話になりました。おじさん、おばさん」
「それじゃ出立じゃ」
僕もハンナの両親にお礼を告げた。そして僕たちはお世話になった村を後にして、
冒険の旅に出発したのだった。
僕はふたつの指先で異世界を渡り歩く いりよしながせ @nagase_san
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