#10 お前のターン、ドロー

「さて……俺の方は粗方話した。

目的と、その理由までな……んで?

お前さんはこれを聞いた上で何処まで話せるんだい?」


そう問いかけるマルク。

その問いに、優樹は逡巡する素振りを見せる。


「……ふむ、まぁ今度は俺の番だよな。

さて……じゃあまず、魂の見えるマルクから見て……どう思う?」


「…………」


マルクを試すような問いを投げかける優樹。

それにマルクは真面目な顔つきで優樹を観察して答える。


「……幾つか可能性を考えてるし、間違いの可能性もある。

その上で一番可能性が高そうだと思った奴でいいか?」


「あぁ」


「……お前さん、異世界人なんじゃないか?」


そう、正解を言い当てるマルク。


「へぇ……根拠は?」


「……一つ、人の魂ってのは、人外であれ何であれ、

同じ要素を持っている部分がある事が分かってる……一部を除いてな」


「……続けて?」


「……その例外ってのが、異世界から来た奴らだ」


緊張した顔持ちで、されど得意げに。

その姿は正しく、研究成果を語る研究者そのものだ。


「この世界には、少なくない頻度で異世界人が訪れる……


百年に一度、聖国に呼び出され、悪を滅すると言われる『勇者』

稀に、別世界から前世の記憶を引継ぎ、異才を発揮すると言う『転生者』


そして……」


一度言葉を区切り、言い放つ。


「……それ以外の、何らかの理由でこの世界へと降り立つ……『転移者』


……この内のどれかだ」


そう、言外に……

『お前はこれだろ?』と、視線で問うマルク。


「……なるほど?

それで……話の続きをどうぞ?」


それに対し優樹は、『ご想像にお任せします』と言わんばかりにすっとぼける。

思わずマルクは溜息をつく。


「はぁ……、んでだ。

俺はその内、全てに会った事がある。

勇者は今が丁度その百年だから、お目にかかる機会は多い。

転生者は何人か公言してる奴が居るからな、会おうと思えば会える。

そして……転移者は一度だけ会った事がある」


「ふーん……どんな奴だったんだ?」


「……わからん、何故か姿形を正確に認識できなかった。

おそらく奴が着ていたローブの影響だが……

……だが魂を見る事は出来た、それだけで俺は十分だ」


そう言って頭を振るマルク。

どうやらあまり良い思い出では無いようだ。


「……さて、本題に戻るが。

結論を言おう、この世界の生物全てに共通する魂の要素。

これは生まれた世界によって異なる、と言う事が分かった」


「……なるほど、それでわかる……と」


「あぁ、お前さんの魂はこの世界の物じゃ無い……

そして勇者の顔は俺も知ってるから除外される。

つまり転生者か転移者……だと私は思ったよ」


そう結論を述べるマルク。


「んで?二つ目は?」


「……二つ目は単純に、理屈的な問題だ。

そもそもの話、お前が来た方角は、小さな農村位しかない訳だ。

そんな所からわざわざここまで……何の用だ?って感じたからだな」


「……そりゃ確かに違和感は感じるか」


納得して頷く優樹。

そりゃそうだ、見た目こそこの世界の人に合わせてはいるが

それにしても小綺麗なのだ、髪や肌などが汚れていない。

農村から来たというなら、多少汚れていないと不自然である。

なんで汚れてないかと言うと……完全に優樹のミスだ。

参考にしたのがダルパルトの人だけなのが悪かった。


「んで三つ目だが……

明らか常人じゃ無い空気を纏い過ぎだな」


「……そうなのか?」


「あぁ……

視線、歩幅、重心、手の位置……

普通に人間の動きでは無いな」


「……そんなにか」


「あぁ……恐らくだが、戦い慣れてる奴にはバレるぞ」


「今度から気を付けるか……」


結構ボロが出るものである。

人間、自分が認識している事以外は対処できない物だ。

幾ら気を付けても、気が付かなければどうしようもない。


「……はぁ、まぁいい。

その通り、俺は異世界人、それも転移者だ」


「まぁ、だよな……」


予想通りではあるが、若干嫌そうな顔をするマルク。

恐らく本当に転移者には良い思い出が無いのだろう


「んでもっておおよそ察しがついてると思うが……

俺は自力でこの世界に渡ってきた、理由は……その内話すさ」


「今は秘密……ってか、まぁそりゃそうだろうな」


マルクは「わかってましたよ」と言わんばかりにかぶりを振る。


「後は……出来る事を教えた方が良いか?」


「……それ、全部教えて貰ったら何日かかるんだ?」


暗に、「お前なんでも出来るだろ」と言いたげな視線を送る。


「さぁ?案外数分で終わるかもよ?」


「……どーだか」


胡乱な目を向けるマルク、優樹はやれやれと肩を竦める。


「……別に俺も万能じゃないさ、じゃなかったらここに居ないしな」


「……それもそうか」


マルクは魂が見える、そして優樹の魂は”普通過ぎる”。

それはつまり、魂すらも隠していると言う事であり、

魂を専門とするマルクからすれば……”異常”と言えるような事である。

魂を隠せるほどの実力がある様な存在……

結論から言えば、マルクは優樹の事を計りかねている。

その上で、恐ろしい程の実力がある事が確定しているのだ。


上限は見えないが下限は見える。

楽観的な人間は下限しか見ないだろう。

だが慎重な人間はそうはいかない。

自分の想像の限界まで高く見積もるしか無いのだ。


果たして優樹はマルクが考える程なのか……それとも……

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狂気の大賢者の冒険記~異世界でマイペースな大冒険~ 秋星優樹 @syuujyou_yuuki

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