#3 街の入り口で面倒な事になるのもテンプレだよねっ☆
「お、見えてきたな、あれがダルパルトか」
空が赤く染まり始めた頃、ようやく優樹の視界にダルパルトが見えてきた。
「かなりデカいな、城壁も頑丈そうだし都会なのか?」
「そうね、都会と言えば都会っぽいわね。
ただ、どうもこの辺の地形的にこの街が終点みたい。」
「確かに山だらけだもんな、向こう側には続く道があるのか?」
「えぇ、こんな辺鄙な場所に牽かれるはずの無い大きな道がね」
「そりゃ不思議だな」
数刻前までの危ない雰囲気はどこへやら、リリスがダルパルトの補足をする。
あまりにリリスが睨むので見兼ねた優樹が御機嫌取りをしたのだ。
「さて、もうすぐ着く……の、だが……」
「どうしたのよ、急に」
先程まで早く街へ行こうとしていたのに、急に歯切れが悪くなり立ち止まった優樹。
「いや~今思ったけど、身分証が必要ですとか言われないよな?」
「あぁ~……考えてなかったけど、可能性としては十分にあるわね……」
そう、優樹はふと身分証の必要な可能性に思い至ったのだ。
この世界に来たばかりの優樹にはこの国がどういうシステムかがわからない。
よくある物語ではギルドカード等の身分証が必要になる事も多い。
また、身分証がない場合金銭の要求をされる事も多いが、
生憎と優樹は異世界から来た為この世界の通貨など持ち合わせていない。
その為街に入ることさえ出来ない可能性が浮上したのだ。
「どうするの?このままだと野宿どころか一生街に入れないわよ?」
「最悪の場合は不法入国する事もやむを得ないか……
って、既に不法入国はしてないか?よく考えたら入国手段として不正規だろ」
「……あっ」
更には自分達が犯罪者になる可能性すら出てきてしまった。
この世界に戸籍などの個人情報を管理するシステムがある場合
速攻でお縄に付かなくてはならないかもしれないのだ。
「……どうしよう、これって八方塞がりなんじゃないの……?」
「ま、まだだ、まだ慌てるような時間じゃにゃい!」
「噛まないで頂戴……余計に不安になるから……」
ネタに走ろうとしたが噛んでしまいフラグがさらに強化された。
最早ここまでか……と、大袈裟な心境の二人。
「……うん、まぁ、運が悪ければ運が悪かっただな!当たって砕けるか!」
「確かにそうだけど私は砕けたくないわ」
開き直った優樹と遠い目をしてこの先を憂うリリス。
「よし!もう自棄だ!いくぞリリス!」
「あ!ちょっとまって!」
自分で言った通り自棄になって突っ走ろうとする優樹をリリスが止める。
無理矢理勢いをつけてた優樹は勢いを止められて口を尖らせる。
「なんだよ?ここで考えててもどうしようもないって」
「いや、そうじゃなくてね……」
「ん?何か他に問題が?」
全く気付いていない優樹にリリスは苦笑いしながら問題点を指摘する。
「……あんたの格好、この世界だとかなり浮くわよね……」
「……あっ」
そう、優樹は日本人の為黒髪黒目のTHE・日本人といった見た目だ。
対してこの国の見た目はリリス曰く、イギリス人に似たような見た目をしているという。
当然、その中に優樹が居たら悪目立ちするに決まっている。
「あ~、そういや全く考えてなかったな……」
「全く……早く何とかして頂戴」
「へいへ~い」
そんな軽い返事と共に優樹がその場でターンする。
すると優樹が光に包まれ、そして出てきたのは……
「よっと、これで良いだろ」
先程までとは全くと言って良い程違う見た目をした人だった。
いや、優樹であることには間違いないのだろう、面影自体は残っている。
だが元の見た目が黒髪黒目のTHE・日本人だったが、
今では金髪に緑の瞳、イギリス人に近い顔立ちとなっている。
だが顔には日本人としての優樹の面影もあり、別人ではない事が伺える。
「やっぱりこの姿でも違和感ないわね」
「まぁ普段から使ってる仮の姿だしな、最初からこの格好でいればよかったわ」
優樹が言うにはどうやら普段から使っている姿らしい。
優樹をよく知る人でなければ気付けないレベルの変わりっぷりである。
「う~ん、でもねぇ……」
「なんだよ?」
再び苦笑いしながら優樹を見るリリスに優樹はジト目を向ける。
だがリリスはそんなことを気にせず問題を指摘する。
「いや……どうもこの世界って基本的に高身長なのよね……」
「……オイ、まさかじゃねぇけど……」
見た目がイギリス人に近いからなのか、日本人とは違い
身長もそこそこ高い人が多い様だ。
そして優樹は日本人であり、更に……
「……いや、その見た目じゃドワーフとすら思われずに
子供にしか思われないんじゃないかなぁ~って……」
「うるせぇな!
ちぇっ、日本じゃチビ程度で済んだけど流石にここじゃ無理か……」
そう、優樹は平均身長が低い日本人の中でも特に背が低いのだ。
具体的には152cm、日本でもギリギリ中学生だと思われるレベルだ。
しかしこの世界は中世のヨーロッパ……栄養不足の可能性はあれど人種的に身長が高い傾向があるようだ、その為日本人の中でも特に小さい優樹はただの子供にしか見られない可能性が高い。
そして何故優樹とリリスがその事で悩んでるかというと……
「どうしよう、ガキと言われて相手にされなかったら……」
「まともな門番だったらいいんだけど……ね……」
そう、門番に相手にしてもらえない可能性があるのだ。
ただでさえ優樹は何も持っていないのだ。
その上子供と判断されてしまったらただでさえ難しいのに
更に入る事が出来る確率が下がってしまう。
国ガチャに加えて門番ガチャもしなければならないようだ。
「はぁ……いや、もう腹くくったんだ、なるようになるだろ」
「腹をくくってもなるようにならない時の方が多いのよ……」
「……余計なことを言わないでくれ」
そんなどんよりとした空気の中門へと歩いていく優樹とリリス(見えない)
徐々に門番の人がくっきり見えてくる、それは門番にとっても同じようだ。
「...ふぁぁ~...お?なんだ?こっちから来る奴は余り居ないのに、珍しいな」
あくびをしていた門番がこちらに気付いたようだ、
優樹は一瞬固まるが、直ぐに歩き出す。
「こっちには農村しかねぇからな...ってことはお使いかい?
えらいなぁ坊ちゃん、ただもう直ぐ日も暮れるから
今日は泊まっていった方がいいぞ、宿泊費はあるかい?」
かなり優しそうな門番である、気怠そうにしてはいるが
それなりに腕も立つたちそうだ、いつでも戦える姿勢を維持している
「あはは、まぁそんなところです、生憎お金は無いですけどね……」
「見た目の割に随分大人びてんな……
もしかして既に大人だったりするか?だとしたらすまねぇ」
「いえ、気にしないで下さい、慣れてるので」
少し話をしただけで大人である可能性に思い至る辺り
観察力と知識力、そして頭の回転が優れてる事がよくわかる。
「いや、そういうわけにもいかない。
お詫びといっちゃなんだが、今晩は私の家に泊まっていくといい。
どうせ今から宿を取ろうにも貴賓用の部屋以外空いてないだろうしな。」
衛兵はそう言って姿勢を正した。
丁度そこへ他の衛兵が歩いてきた。
「マルクス様、交代の時間であります、どうぞお休みに...おや
その方々はどちら様ですか?」
「彼は先程ここに来たばかりでな、この時間じゃ宿も空いてない。
少々失礼な事を言ってしまったのでお詫びに
今晩は我が家に招き入れようと思う」
「おぉ、流石マルクス様、この様な得体の知れない子供にすら
手を差し伸べてあげるとは……いや、全く流石衛士長と言わざるを得ませんね!」
「…………」
マルクスと呼ばれた衛士長はその顔を引き攣らせている。
それもそうだろう、失礼の詫びの為に家に誘ったのに
同僚……いや、この場合は部下だろうか?
何にせよ数秒しか経っていないのに同じ失礼を働く羽目になったのだから。
引き攣った表情のままこちらを見てくるマルクス。
優樹は思わず苦笑いするしかなかった、
取り敢えず頷いて気にしないようにと目線で訴える。
すると安心したようで表情を元に戻す。
「おや?どうかなされましたか?」
「ん゛ん゛っ……いえ、なんでも。
それよりお先に失礼させてもらうよ」
これ以上面倒事が起きないようにそそくさと退散しようとするマルクスさん。
しかしこの手の輩はどこまでも祟る。
「えぇ!どうぞごゆっくりなさって下さい。
あ、でもそのガキと一緒だと休めないかもしれませんね、アッハッハ!」
何が面白いのか笑い出す衛兵。
見たところ裕福な所の出なのだろうがあまりに空気が読めなさすぎる。
再び凍るマルクスの表情筋。
これには優樹も思わずニッコリ(遠い目)
「……これは酷い…………」
「……後でフォローしてあげなきゃな…………」
若いはずなのに哀愁漂うマルクスの背中を見て
思わずそう呟く優樹とリリスなのであった。
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