#8 お家騒動の発端は大抵下らない事
「……無能?お前が?」
「あくまでそういう事になってる、と言うだけだ。
俺は自分が"有能"と思える程自信家じゃ無いが……
……まぁ、色々な面において、家族よりは優れてると思ってるぞ」
「……それはつまり、お前のご家族の方がよっぽど無能って解釈で良いのか?」
「……まぁ、そうなるな」
その答えに思わず優樹は半目になる。
「……その状況でなぜ形勢逆転できずにいる?」
「……10才の頃には既にそういう状況が出来てたって話をしてもいいか?」
「……苦労してんだな」
「……お互いにな」
ジト目から遠い目へと変わる優樹、マルクも心なしかやつれた顔をしているように見える。
齢10才にして既に四面楚歌、無理ゲーにも程がある。
「……まぁ、事情は分かった……それで衛兵なんてやらされてるのか」
「あぁ、長という称号があるとはいえ普通は領主の息子がやる仕事ではないな
下級貴族の長男以外……とかなら全然あり得る仕事ではあるが……」
「……失礼ですが実家の爵位は?」
何かを察した顔で問う優樹、それに対してマルクは……
「低く見積もっても辺境伯、考えようによっては公爵だぜっ!」
素晴らしくいい笑顔と、サムズアップで答えた。
「……わけがわからないよ」
「だろうな、俺も言ってて意味不明だしな。
だがこれは一応事実だぜ、認めねぇ奴は必ず居るだろうがな」
軽く笑った後、そう真面目に答えるマルク。
そもそも爵位と言うのは、一般的な物は下から順番に
男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵
の順であり、これに加えて、一代限りの勲章である"騎士爵"
一代のみ引継ぎ可能な"準男爵"、そして重要な拠点を任され、
物によっては侯爵すら凌ぐ権力を持つ"辺境伯"
そして最後にこの国の最高権力である"王族"
そしてマルクはこの街の領主……即ちマルクの父が
辺境伯か公爵と言った、つまり"どう低く見積もっても侯爵以上"であるという事だ。
それに、ほぼ最上位である公爵という地位は基本的に"王族に近い"必要があり、
余程の事が無い限り、王族の血縁者から選ばれる。
そんな状況で、何故見方によって地位が変わるのか……
それも、可能性としては公爵家であるとすら言える
そこまで考えて優樹も思い至る。
「……なるほど、つまり……お前の母さんが王族……って事か?」
「……ご名答」
にっ、と笑みを浮かべ、優樹の質問を肯定するマルク。
そう、その場合幾つかの辻褄が合うのだ。
見方によっては公爵、というのは母親が王族だという事で成り立つ。
だがマルクの話では母親は故人である。
その場合、マルク等の子供は王族の血を引いている為問題無いが、
彼らの父親は王族の旦那"だった"人になるのだ。
その場合、マルク達の父を公爵と呼ぶか否かは賛否両論となるだろう。
そしてそして当のマルク達も、他貴族たちからしたら
公爵に等なって欲しくないと思うのが当然とすら言える。
地位や権利に固執する人と言うのは、自分と同等やそれ以上の存在を
どうしても認めたくないのである。
「……俺の母上は前国王の第七王女であり、本来は妾の子だった。
だが前国王、並びに現国王は実子として公表、当時の女王陛下も
我が子同然に扱い、列記とした王族として育てられたそうだぜ」
「なるほど……それは誰から聞いたんだ?」
「親父からだぜ……おっと、さっき妹以外は敵みたいな事を言ったが、
親父に関しては家督争いにおいて敵ではあるが、別に本当の意味で敵って訳じゃないぜ」
「ふぅん……?……あぁ、そうか、そう言う事か」
疑問符を浮かべた優樹だが、すぐに納得したのか頷いている。
「あれか、お前の父親は家督を長男に継がせようとしては居るけど、
別に特段マルクスを嫌ってる訳じゃ無いのか」
「そうだ、ついでに長男のバルト兄もそんな悪い奴じゃないぞ、プライドは高いが」
「……じゃああれか?次男の方か?問題があるってのは」
「それとヴァイ姉もな、俺が10歳の時点で次男のアール兄……
アーノルド・ルーベルシアが16歳、ヴァイオレット・ルーベルシアが18歳だ
暗躍するには十分すぎる年だった……って訳だ」
「…………」
そう言って苦々しい顔を浮かべるマルク。
そして全てを察した優樹は顔を引きつらせながら、頭に浮かんだ仮定が真実かを問う。
「……なぁ、それってつまりさ」
「……なんだ」
「……次期領主になりたいその二人の陰謀に巻き込まれた、って事……だよな?」
「……」
その問いにマルクは今までで一番呆れたような顔で答える。
「……大正解だ、クソッタレが……」
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