#7 作戦会議
「……引き受け得てくれるのか」
「あぁ、俺は別に人助けなんぞに興味は無いんだが……」
一泊置いて、優樹はあくどい笑みを浮かべながら続ける。
「……どっちかつーと”お前に”興味が湧いたからな」
「……こりゃ参った、どうやら報酬は金銭じゃなく
俺の体で支払うことになりそうだな」
「……今思ったがお互いに語弊がある表現な気がするな」
「……やめろ、そういう意味じゃない」
腐ってる方々が喜びそうな空気になってしまった。
勿論、あくまで優樹が興味を持ったのはマルクやマルクスの
"魂魄性解離性同一症"という珍しい事例についてだ。
「……奇遇な事に、俺も"研究者"なんだよな」
「そりゃまた奇遇だな……実験動物みたいな扱いはやめてくれよ?」
「多少は痛いかもしれないが丁寧に研究させてもらうさ」
「そりゃどうも」
そう言って腰をソファーに落ち着けるマルク。
自ら……いや、正確にはマルクスが入れた紅茶で唇を湿らせて
再度優樹に向き直る。
「んで?受けてくれるって事だとして……
そちらから今必要な要求はあるか?」
「まずは情報だな、お前の事も、家族の事も、街の事も……
とにかく知らない事が多過ぎる、少しでも情報をくれ」
「……それもそうだな、じゃあ今言った順番で話をしよう」
そう言って顔を引き締め、話し出す。
「まず俺の事だが……さっきから言ってる通り、俺は『二重魂魄』だ。
そしてこれは『二重人格』とはある意味全く別物と言える……」
「……『二重人格』はあくまで"精神""性格"と言ったものが分離されるだけだが、
『二重魂魄』は魂そのものが二分され、同一の身体に二つの魂が宿っている……という事だな?」
「大正解だ」
本来魂とは、当然だが一つの身体に一つだ。
それが人の理であり、本来その理から外れる事は無い。
しかしマルク達は一つの身体に二つの魂を宿している。
そして理から外れるというのは、必ずしも悪い事とは限らないが
基本的に大きな代償を払う事になると言える。
「"診た"感じその二つの魂、どっちを出すかは自由ではあるけど……
……バランスを保つ必要があるな?さては」
「……流石だな、その通りだ」
「……やっぱりな」
そう意味深な事を言う二人。
マルクは溜息をついて、詳しく説明する。
「……言われた通り、俺とマルクスは均衡を保つ必要がある。
こうやって体を操作する時間もそうだが、何かを食べる事もそうだし、
果ては人や動物、魔物なんかを殺める量もおおよそ同じにしなくてはならない」
「……"そうしなかった場合"、どうなるかはわかってるのか?」
「……前例がほぼ無いから断言はできない……が」
そこで一度言葉を止め、逡巡したのち……再び話し出す。
「……恐らく高確率で死ぬだろうな、俺もマルクスも。
それもただの死じゃ無く……魂ごと消滅すると思われる」
「……そうか、俺が"診た"感じでも……同意見だな」
つまり、それが人の理から外れた事による代償の一つ、と言う事なのだろう。
魂ごと消滅する……ただの人間にはあまり考えられない事だ。
だがそれが"非常によろしくない事"である、という認識は
マルクと優樹の間で共通認識のようである。
「……話が若干逸れたな、まぁ要するに俺らには色々制約がある」
「だから門番をしている時は、マルクを表に出してバランスを取ろうとしたのか」
「あぁ、人が居る時は基本的にマルクスじゃねぇとマズイからな」
「……という事は、『二重魂魄』であるという事は知られてないのか」
「あぁ、というかそもそもこの辺で俺らの事を知ろうとする人間は
領民から家族まで、誰一人いないと言っていいだろうからな」
そう自虐的に言うマルクに、若干の違和感を覚える優樹。
「……なぁ、もしかしてだけど、その口ぶりから察するに……」
「……多分考えている通りだと思うぜ」
そう言って、肩を竦めて呆れたように笑いながらこう言った
「この街では俺は"ルーベルシア家の恥"と言われる程"無能"として扱われてる」
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