この物語は、顔に火傷を負って醜悪の烙印を押された商人治郎左と、魔境、遊郭の花魁とを巡る愛憎の物語。男は金か、それとも顔か。それはいつの時代も我々の側を付いて周り、モテたいと切実に願う者たちからは、決して切っては離せぬ永遠の議題であろう。尚、男は金でも顔でもない。心意気だ。などという回答は、今回に限ってはご遠慮願おう。また、この話は時代劇物となるのだが、表現が分かりやすく、普段こういった話を読み慣れない人でもスルスルと読めてしまうこと請け合い。あとは自らの目で確かめられたし。
闇がないところには光がない、というように。絶望のないところに希望はない。治郎左衛門に、確かに「狂気」はあったのでしょう。けれどどうしようもなく、人間という生きものは、あるいはそういう存在なのではないかと、そんな気もする私もいます。
この世の極楽、吉原遊郭? いいえ、この世に極楽なんてありません。 治郎左衛門は、地獄行き? いいえ、この世より酷い世界は、ありません。 この世界こそが、地獄。 人の皮を被った鬼の闊歩するこの世界。 金や銀に、煌めく世界こそ鬼の棲家。 心奪う妖艶な美女こそ、狂気への落とし穴。 このお話を読んで、あなたも眠りを知らぬ夜の世界を 狂気へ続く闇の世界を覗いてみては如何でしょう? これは、運に見放された男の救いのない物語? いいえ、地獄では、きっとよくある……。
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