エピローグ ?
その時。
『――……返事……、繰り返……。そこの〈アルテ……』
声。
幻聴じゃない。たしかな通信受信。
若い女の声だった。ユーリと歳が変わらないくらいの。
そして神やら信仰やらを信じたくなるほど奇跡的なまでに聞き覚えがある、涼しげな声。
間違えようがない。
『――そこの〈アルテェア〉のパイロットさん? 気が確かならしゃんと返事をなさい?』
ユーリもはっと意識を取り戻す。
ティルトローター輸送機が一機。騒音が耳朶を叩く。
速力減少し、徐々に降下。ホバリングモード。こちらにアプローチして……着陸。
降りてきたのは育ちもスタイルもいいレディーススーツ姿の、若い女だった。
ユーリは思った。来れるのなら、もっと早くくればいいものを。
でもまあ、せっかく逢えたから、話くらいは聞いてやってもいいか。
「……俺は、生きてる」
「まにあってよかった。恨めしく幽霊になられても目覚めがわるいもの」
傷病者用パウチをよこしてきた彼女の得意げな声に、ユーリは確信する。
まったく。この女は変わってない。
「……あんた。性格悪いぞ」
「〈あんた〉じゃなくて。名前は?」
「この際、あんたでいい」
ユーリはつっぱねた。
こっちは、死にかけたんだ。この冷たさでいい。名前なんて……美味いメシをよこすまでは呼んでやるものか。
「へえ~? いまや自由の国の大統領のわたしにそんな態度でいいのかしら。せっかくユーリにぴったりな職を用意してあげているのに」
「なにが言いたいんだ。権力者」
「愚問ね。元傭兵に再就職先なんて一つじゃない」
彼女は言った。
そして。
ユーリもまた、答えた。
〈了〉
【短編】D・G ディサイシヴ・ギア ICHINOSE @tokyotype94
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