怪談に目がない

そうざ

I Love Horror Story

 草木も眠る丑三つ時と言いますが、そんな草木でも寝苦しい程の熱帯夜の出来事です。

 駅前の交番に新米警官が一人、連続猟奇殺人すら起きない夜に退屈な時間を過ごしておりました。

「お晩で御座います。実は泥棒の被害に遭いまして……」

 いつの間にか、野球帽を目深に被った青年が俯き加減で佇んでおりました。

「何を盗まれたんですか?」

 調書の準備をする新米警官に、青年はおもむろに野球帽を取って言いました。

「はい……目玉です」

 青年の顔には目玉がありませんでした。新米警官は悲鳴を上げる間もなく失神してしまいました。生まれて初めてのっぺらぼうを見たのですから、口から泡を噴いても致し方のない事です。

 どれくらいの時間が経ったでしょうか。新米警官を叩き起こす声がしました。

「おいっ、何をサボってんだっ。泥棒を捕まえて来たぞっ」

 それは、パトロールに出ていた先輩警官でした。傍らにはすっかり観念した様子の泥棒が項垂うなだれています。

 目の覚めた新米警官は、慌てて調書を広げて訊きました。

「こいつは何を盗んだんですかっ?」

「目玉だ」

 先輩警官は泥棒の髪を掴んで顔を上げさせました。そこには、二重瞼の団栗眼どんぐりまなこと一重瞼の垂れ目が不恰好に並んでいました。

「何だって目玉なんか盗んだんだぁ?」

 先輩警官に頭を小突かれた泥棒は涙ながらに言いました。

「どうしても遠近感が欲しかったんです……」

 新米警官はと言えば、またしても気を失っていました。のですから、口から泡を噴いても致し方のない事です。

「情けない奴だ」

 先輩警官は、一つ目で目を回している新米に侮蔑的な一つ目を向けました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪談に目がない そうざ @so-za

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説