二十四節気七十二候プラスアルファ、日本の暦が人の姿を取った四季の宮。
新しい『雀始巣』に選ばれた少年と、その面倒を見ることになった『玄鳥至』を主人公に、四季を巡りながら、彼らに起きている小さな異変を紐解き、物語の奥深くへと分け入って行きます。
キャラクターは擬人化された暦たち、四季二十四節気七十二候、さらには雑節と干支までいます。凄まじい数です。
それでも不思議と識別できるのは、暦の持つ個性、言葉とイメージの力ゆえでしょうか。
背景にあるのは、変わりゆく四季と自然、そして人の心。気候変動を考えるとなんとも悩ましいところですが、これら暦たちがこれからも変わらず在ってくれることを願わずにはいられない、そんな、少し切なくて、後味爽やかなお話でした。
日本で暮らしている方々、そして日本の文化に興味がある方々。
この作品を読んで暦のことをもう少し詳しく知ってみませんか。
日本の四季は春夏秋冬だけで区切られているわけではありません。
農耕民族である日本人は古来より農作物を効率よく収穫するために、季節を時候として細かく分けて作業の時期を見定めてきました。
けれど想像してみてください。
もしその暦の時効が一癖も二癖もある神々だったとしたら……。
このお話では二十四節気七十二候を個性あふれるキャラクターとしてそれぞれに生き生きと立ち居振る舞わせることにより、美しくも苛烈な四季を鮮やかに描き出しています。
またメインキャラクターである玄鳥至と雀始巣が織りなす冒険劇やそれぞれの存在に隠された謎が絶妙なスパイスとなって読み手をストーリーに引き込んでいきます。
そして驚いたことに公開のタイミングをその時候に合わせているという芸の細やかさ。
このあたり作品に入れ込む本気度がひしひしと感じられます。
なにより映像が目に浮かぶような情景描写と軽やかに舞う展開の妙。
アニメ化されたらきっと面白いだろうなあ。
そんな風に思ってしまう、ぜひとも多くの皆様にご一読いただきたい作品です。
「つばめきたる」は、暦を擬人化した独創的なファンタジーです。時を司る「暦」たちが季節ごとに生き生きと活動する様子は、日本の四季の美しさを改めて感じさせてくれます。
個々の暦が持つ個性や物語は、我々の日常に密接した季節の移り変わりを、より豊かなものにしています。また、複数の伏線や謎が絡み合いながら進む物語は、読み進めるごとに新たな発見があり、その深みに引き込まれます。古代からの知恵と情緒が交錯するこの物語は、現代に生きる我々にとって、新鮮で、かつ懐かしさを感じさせる稀有な作品です。まるで季節を感じる詩集を読むような、そんな豊かな読後感を味わいたい方におすすめします。
つよ虫
ライト文芸とタグがありますが、ライト文芸じゃない気がしないでもないです。私は文芸寄りの小説だと思っているので、ライトノベルが好きな人は、もしかしたら合わないかもしれない小説です。
なぜ、そういうことを言うかというと、哲学的なんですよ、この小説。時の移ろい、季節の移ろい、なんというか、諸行無常というか、小説なのに、詩集を読んだかのような読了感があって、エモい小説を読んだ後のような切なさがあったり、上手く表現ができない、独特の世界です。
このくらいのネタバレはいいと思いますので、というか、サブタイトルにかいてあるので、いいますが24節気や季節の擬人化なんですが、これが本当にエモい。読み終わった感の余韻が抜群にいい。なんというか、一節気読むたびに「不思議」と季節の流れを感じる物語で、詩集が好きな人にはお勧めな小説です。
ただ、古きよき時代設定で物語は進みますが、読みやすさ重視で、現代用語(カタカナ)も出てきますが、それで雰囲気が壊れることはないので、気にせずに読み進めてくださいね。
春の到来に悦び、夏の暑さに耐え、色づく樹々に秋を知り、木枯らし吹いて冬に備える…
いにしえより大和びとは、巡る四季を愛で、慈しんで参りました。春夏秋冬、景色は移ろい、接する心持ちもまた変わります。俳句の詠み人に限らず、歳時記は、わたしたちの暮らしに密着したものと申せましょう。
そうした人の生活の陰で、季節を司る「暦」たちは日々、奮闘しているのです。
四季だけではありません。その下には、二十四節気があり、更に七十二候。およそ五日にいっぺん季節は細やかに移り変わります。しかし、巡る季節は一筋縄では行かず、暦を司る者は大忙しで、不具合もアクシデントもまた日常的。いつも頭を悩ませています。
主人公は、春・清明の頃を取り仕切る玄鳥至(つばめきたる)。その者の元に、代替わりの新入り雀が現れたことから、どうにも奇妙で例年とは少々異なる一年が始まります。
謎めいて、滑稽で、奥ゆかしくなく、時にほっこりさせられる折々の逸話。擬人化された「暦」たちの立ち振る舞い、暮らしぶりは、現代風でもあり、上代風でもあります。
語り口は軽妙洒脱、面白可笑しく歳時記の細部を学べる一方、季節を巡った後に何の真実が明かされるのか、興味も関心も高まる構成です。オリジナティ豊かに唯一無二の小説ながら、親しみ深い神話のような味わいを秘めています。
さて、四季の変遷の先に何が待ち構えてるのやら。この趣向を凝らした歳時記の行方や如何に。皆様、ご一緒に、移ろう季節を過ごし、実りある冬を迎えましょう。
登場人物は「暦」です。
日本の(古代中国から伝わったものも多いと思いますが)暦には実にいろいろな「季節を表す言葉」があるのですね。
日本文化の勉強になるなあと思って読んでいましたが、今ではすっかり和風ファンタジーの雰囲気に魅せられています。
空の上におわす神様たちの仕事場という雰囲気で、のんびり明るい空気に癒されます。
でも物語を通して解き明かされる「謎」もあります。
それは主人公の存在と、前任者が消えた理由。
あとから冒頭のプロローグが重要なシーンだったことに気付いて読み直してしまうくらい、しっかり伏線が張り巡らされています。
でもそんな謎解きにこだわらなくても、色とりどりの描写を味わうだけで存分に楽しめる作品です。
四季・二十四節気・七十二侯が擬人化されたキャラクターたちがにぎやかに織り成す天上絵巻、ぜひあなたも紐解いてみてください!