あとがき

 この物語は、「あらたまの恋 ぬばたまの夢 〜未玉之戀 烏玉乃夢〜」

 で登場した母刀自ははとじの話です。


 彼女は、ストーリー展開上、まだ子供である古志加こじかを遺して、非業の死を迎える事が避けられず、また、奈良時代。

 美しいさとおみなが、郷においては権力を持つ郷長に目をつけられたら、どういった目にあうか。

 避けられず。


 救ってあげたくても、救ってあげられないキャラクターとして、著者も悩み、精一杯、はなむけをしました。

 本編できちんと母刀自が救われた(死んではいるから、できる範囲にはなってしまうけど)ところまで描いたつもりです。


 それでも、読者さまの、「母刀自かわいそう。」の声が、ずっとポツリポツリと、絶えることなく届いていました。

 

 私には、お空に昇った母刀自の笑顔が見えていました。

 彼女は、そんなに悪い気分で昇天したんじゃないんですよ、というのを、ばーっと絵巻物を大きく広げるように、読者さまにお見せする必要がある、と感じました。


 母刀自は、古志加の願いに応えて、最後の力を振り絞り、古志加から悪夢を祓います。

 そのまま、力つき、昇天となるのですが、神様が時間を与えてくれました。

 母刀自は、昇天の前、古志加の夢のなかで、古志加と語らい、別れを告げたあと、母刀自のまわりの空間とともに、花麻呂はなまろの夢に移動します。

 領域展開。A○フィールド。結界。

 そのような物ごと、夢から夢に渡ります。

 花麻呂や日佐留売ひさるめから見れば、自分の夢が中断され、母刀自が夢に乗り込んできてるのですが、母刀自の体感としては、相手が自分のいる場所に来てくれた、と見えています。


 さて、天鶴売あまたづめが母刀自の腕のなかで、満足そうに笑っているのは、何故なのか。


 生まれて3日で、福成売ふくなりめが寝てるあいだに非道にも売られた天鶴売あまたづめは、赤ちゃんから成長することができず、天に召されました。


 そして、ずっと、雲の上で福成売ふくなりめを待っていました。

 母の愛を得ることが必要で、早すぎた一生のなかで、母から愛を受け取ることを、があるからです。

 それを果たさずに、まっさらな魂として転生し、前に進むことはできません。

 福成売もしかりです。

 天鶴売に母の愛を注ぐことができて、やっと福成売も、心から安堵し、魂として前に進むことができるのです。


 一足早く来てくれた祖父母が、一緒に待っててくれました。

 今、やっと、福成売に抱かれ、充分に得ることの叶わなかった母の愛をそそがれ、また、福成売が心から自分との再会を喜んでいてくれているのを、魂として感じ取り、今、天鶴売は幸せです。

 なので、満足そうに笑っているのです。


 天鶴売は、まだ、現し世に、新しい命として生まれ直す切符を手にしています。

 きっと、近いうちに。

 そう、私は思っています。



 さて三虎。

 上機嫌で漢詩を思い出してます。

 ふんふんふん〜、鼻歌気分です。

 「おいおい、おまえ、もうちょっとしたらな、って思ってたのに、ちょっとじゃないじゃん!」

 と突っ込んでやってください。


 いじめられた古志加が、後から三虎にお返しをするオチ、で始めは書いてみたのですが、しっくりこなくて、やめました。

 三虎は古志加をいじめつつも、深く愛しているので、愛があふれだしてしまいます。

 古志加は、三虎ひどーい、と思いつつ、三虎の愛を感じて、仕返ししてやりたい気持ちが頭からポーンと抜けていって、どうでも良くなってしまいました。

 まさしく忘我の境地。え? 違う?


 三虎は、古志加を愛し、もう可愛がりたくてしょうがない。

 何度かき抱いても飽きることのない、それはどんな愛か。

 古志加も、三虎をどんなに愛しても愛し足りない。

 そんな古志加は、これでもかと愛され、悦びは深いのです。


 本編を読んでくださった読者様に、古志加は幸せに過ごしてますよ、という、私からの贈り物のつもりです。

 


 母刀自が雲の上からみてるのが嫌だって?

 はっはっは……。

 死者である魂に隠し事はできません。

 母刀自は、とても嬉しそうに、娘を見ています。その母刀自の笑顔は慈愛に満ちています。

 古志加の幸せを願い、古志加を守りぬいた福成売は、娘の幸福とともに、光る空の上にいます。



 ここまでご覧くださり、ありがとうございました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うらふく風の 〜母刀自、福成売〜 加須 千花 @moonpost18

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ