終話  あどかあがせむ

 古志加こじかは半泣きになった。


「わあああん!」


 もうとっくに、快楽くわいらくの限界を突破している。

 もう充分ですって訴えたのに、三虎が止まってくれない───!

 あたしどうすれば良いの───!


 三虎が前に、おみなには芯がある、と教えてくれた。

 そこをゆっくり、動くか動かないかくらいの速度でめられ、三虎の舌の甘い柔らかさ、濡れた感触をしっとりと芯で感じれば、芯は強烈なよろこびをあたしに寄越し、おみなの壺はとろけ、じゅんとあふれる。

 芯を舌先でツンツンつつかれれば、痺れる快楽くわいらくが全身を貫く。

 芯を舌で左右に揺らされれば、気持ち良さで意識が飛びそうになる。


 三虎がおみなの壺の入り口全体を、細く長く続いて絶えず、舐めるので、壺から蜜がますます溢れ出し、三虎の繊細な舌の動きをなぞるように、充血する感覚が追いかけ、身体中の血潮ちしおが全部そこに集まり、渦となってゆく。

 至極しごくのくわいらくが入り口で渦を巻く。


 ひー!

 もう奥まで欲しいですー!

 至極のくわいらくが激しく渦巻きすぎて、もう、もう……。


「ひっ!」


 本当に意識を手放しそうになる鋭いくわいらくに身体を痙攣けいれんさせ、悲鳴をあげてると、やっと三虎が口を離した。

 満足そうに、ニッ、と口元が笑っている。


 はあ、きつかった。

 あのですね、早く欲しいんです……。


 と思って三虎を見ていると、


「外は問題ないようだ。じゃ、奥までだな。」


 意地悪な言葉とともに、望むものが一息に至極のくわいらくの渦を突き破った。


 あ、


 あたしはく。


 ────そんな事言うなんて、三虎ひどーい! 伊奴いぬなんて何もないのにー! 


 くわいらくの波頭はとうはなはだ太く早く脳天を突く。


 ひ、


 あたしは啼く。


 ───三虎、嫉妬なの? ただ、からかってるの? どっち。どっちにしろ意地悪ー! 


 くわいらくは砕ける波となり、白い光の粒となり、光の粒はねじれ合わさり、太い奔流の柱となり、何度も何度も、脳天まで突き刺さる。

 ああ、きつい。


 ……すごく良い。


 どうしておみなの身体はこうできているのだろう。

 きつく攻め上げられているのに、悦んでしまう。


「ううん? これで素っ裸で戦えるのか、おまえは?」


 ───意地悪ー!

 この戦うはちがうー!


「綺麗だな。」


 唐突に耳元で囁かれる。

 三虎はあたしのこんな姿を見て、そんな事を言う。

 三虎への恋いしさがこんこんといでる。

 とろけるようにあたしは想いを口にする。


「三虎ぁ……。あたしには、三虎、だけです。三虎、じゃなきゃ、あんっ!」


 三虎は言葉ではなく身体で応えてくれる。

 三虎の首に腕を巻きつける。

 三虎はふっと笑った。それだけで、あたしの胸が、ぎゅっと震える。

 こんなにも与えられているのに、まだまだ三虎が欲しい。

 あたしは全てを三虎にささげているというのに、まだ足りず、あたしを捧げたい。

 

 百重ももへに。

 あたしは三虎の唇を求め、三虎は応えてくれる。

 五百重いほへに。

 走りから清い温かい水が吹き上げ、全てを浸す。

 千重ちへに。

 三虎はあたしを揺すり上げ、深く引く。


(三虎。恋しい。三虎……。)


 あまりのくわいらくに頭がぼぅっとしながら、


「あたしに、下さい、三虎。あたしの、愛子夫いとこせ!」


 あたしは叫ぶ。


「いいとも、全てを。オレの、いもよ!」


 今こそ叫ぶ。


 



   *   *   *





 福成売ふくなりめのいる空の上からは、もう、今までのように、生きてる人達にちょっかいは出せない。

 でも、白い雲の合間から、地上を見ることはできる。


 昨日の夜は、あたし一人で、地上を見ていたら、すごかった。

 遠くて、握りこぶしぐらいの人影は、、さ最中さなか、古志加が気炎きえんを吹き上げ、天まで想いが届いた。


 ───三虎。恋しい。三虎。と。


 そして、古志加が困りながらも、悦んでいるのがわかった。

 二人はむつみあっている時間が長い。

 あたしは、そんなに時間をかけて愛されなかった。


 ……不思議ね。

 そんな事を覚えているなんて。

 今はもう、つまの事は顔も良く覚えていない。

 つまはあたしからは遠い人になった。遠くのかすみの向こうにいて、良く姿形が見えない人のように。


 あたしは地上を見下ろす。


 あたしの記憶は、色々なことが光に溶け、喜びしか覚えていない。

 あたしは覚えている。一等強い喜び。絶望の夜を、明けぬ夜を、強い光で闇をはらった、払暁ふつぎょうの明るさを。


 花麻呂。あなたが産まれて。

 古志加。あなたが産まれて。

 天鶴売あまたづめ。あなたが産まれて。


 緑兒みどりこ(赤ちゃん)をこの腕に抱いた時、胸に喜びがあふれ、やっと、夜が明けたの。


 そして今、花麻呂は幸せだ。自分で幸せになれる力がある子だ。あたしは安心して見守っているだけで良い。


 古志加。あたしはずっと古志加の幸せを願い続けて生きて、死んでからも、あなたの幸せを願い続けた。

 そして今、古志加は幸せだ。もう間違いない。あたしはクスクスと笑う。


 あたしの娘には、おみなとして、恋を叶えて、幸せになってほしかったの。


 あたしは、温かい光を揺らしながら、嬉しく微笑んだ。

 

 



 今は昼。あたしは、母父おもちちと肩を寄せ合い、満足そうに笑う天鶴売あまたづめを腕に抱き、地上を見下ろす。


 地上に立つのは古志加。

 己に与えられた屋敷の庭で、お香をくゆらせ、空を見上げている。

 紫煙しえんが昇り、一緒に想いが天まで届く。


 ───母刀自。あたし、三虎が恋いしいの。愛子夫いとこせとの、玉のような緑兒みどりこ(赤ちゃん)が欲しいなあ。


 古志加は、一心に空を見上げている。

 もうすっかり、つまを持ったおみなの顔だ。


 ────ふふ。


 福成売ふくなりめは雲の上から微笑む。

 愛しい娘。

 きっと。

 きっと、その願いは叶えられますよ。

 だって、私には、分かるから。







  ────完────




    *   *   *




「あらたまの恋 ぬばたまの夢」


終章 あたしの愛子夫

終話  幸せです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330650489219115/episodes/16817330652446033622


のあとの話です。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る