正しいゴールデンウィークの過ごし方

改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )

またまた、木星のコロニー型マンションのリビングにて

「そうですか。有り難うございます。では、失礼いたします。ポチッ」


「どうだった、ウッキー。会社はオーケーしてくれた?」


「サッキー、ふふふ……」


「もう、どっちなのよ。一日ついたち? それとも二日ふつか?」


「どっちもー!」


「きゃー! やったあ、九連休だあ」


「サッキーの方は?」


「うん。大丈夫。私はパートだし、もともと緊急の呼び出しの時だけの仕事だから」


「じゃあ、五月一日と二日に限らず、連休中でも呼び出されるかもしれないの?」


「まあ、そうだけど。会社は、休日は営業してないし、保険調査はすぐに動く訳じゃないから、休日の呼び出しは無いと思う。一日と二日も待機シフトを外してもらえたし、私も九連休!」


「わあ、やったあ、九連休! ぴょん 九連休! ぴょん」


「ぴょん ぴょん。しかも、今年は私たち兎の干支番の年だし。干支番割引とか効いちゃうのかしら。きゃー」


「それなら、ちょっと贅沢しちゃう? 常夏の星・水星でキャロットジュースを飲みながら日光浴とか。最高!」


「夜はホウレンソウのオリーブオイルソテーに、ブロッコリーの姿蒸し、大根汁のワインで渋めに乾杯……素敵」


「そんで、一緒に憧れのトマト風呂なんかに入っちゃったりして」


「紫人参のジュースを飲みながら」


「夜はフカフカのダブルベッド。寝かさないぞ、サッキー」


「きゃあ、ウッキーのえっちー♡」


「ただいまあ」


「おかえり、バグス。どうだった、野球の練習は」


「ただいま、パパ。もう、ヘトヘトだよ。五月三日が試合だから、練習がきつくて」


「え! 三日は試合なの?」


「言ったじゃん。観に来るんだよね」


「も、もちろん。ねえ、サッキー」


「そ、そうね。お弁当も作らないといけないしね。美味しいのを作ってあげるから練習も頑張りなさいよ。ほら、お風呂に入ってきなさい」


「サッキー、一日くらい仕方ないさ。残り八日間もある。前半の四連休で水星、後半の四連休で金星だ。金星で金時人参を食べまくろう」


「きゃー、それもいいわね。でも、そんなに金時人参を食べたら、元気になり過ぎるんじゃないの?」


「なり過ぎちゃ、困るのかい?」


「いやだ、ウッキーったら、もう♡」


「ただいまあ……」


「どうした、ユウナ。死にそうな顔して」


「駄目だ……全然できない」


「何が」


「ピアノ。駄目だ。わたし才能ない。これじゃ、今度の発表会には間に合わない」


「いつなのよ、発表会」


「二十九日。今月の……はあ……」


「四月の二十九日なの?」


「当たり前じゃ。今月は四月ぞ!」


「そ、そうね。とにかく、落ち着きなさい。まだ日にちはあるから、練習すれば何とかなるわよ」


「そうだ、サッキー。まだ日にちはある。三連休と四連休なら十分だろ?」


「そうね。前の三連休で日頃の疲れをとって、体力回復……」


「そして、後の四連休で……ふふふ」


「キャー、ウッキーったら、どうしよう♡ 四日間も、私、もつかしら」


「あのー、すみません……」


「どうしたウサジ。なんとなく暗い顔して。大学受験浪人生は大学受験浪人生らしく、大学受験浪人してますって感じで、もっと暗ーい顔してろ」


「ウッキー、三回も言わなくても。ウサジだって辛い立場なのよ。大学受験浪人生としていろいろと気を遣って、大学受験浪人生らしからぬ遠慮をしているのよ、きっと」


 バタっ


「ウサジ! どうした! しっかりしろ!」


「ウサジ! やだ、ウッキー、耳がこんなに熱くなってる」


「本当だ。すごい熱だ。アイスピョン取ってくる!」


「うう……頑張り過ぎました。五月一日と二日が模試なんで」


「馬鹿ね。体を壊したら元も子もないでしょ」


「二日の午後は予備校と保護者の面談ですから。模試の結果を基にして。だから、頑張らないとって思って」


「ふ、二日……ううん、何でもないのよ。二日ね。じゃあ、ママも予備校に行くのね」


「すみませんが、お願いします」


「ただいまあ……って、どうしたの。ウサジ倒れてるし。ウケる」


「ハルカ! ウケてないで、体温計を持ってきてちょうだい!」


「はーい。てか、私も忙しいんですけどお」


「はい、サッキー、アイスピョンだ。ハルカ、弟が具合悪いのに忙しいってなんだ!」


「パパあ、言ったじゃん。五月三日から五日はウチの専門学校の学園祭だって。やることがいっぱいあんの!」


「そ、そうだったか。じゃあ、パパとママも行かないと……」


「べつに来なくていいけど、もともと無理じゃね? 四日はこの階の共用部分をみんなで掃除する日じゃね? 五日は地球からおじいちゃんが遊びに来る日じゃね? たぶん二泊じゃね?」


「え? そうだったかしら」


「ママあ、しっかりしてよ。あ、土星からおばあちゃんが来るの、忘れてんじゃね?」


「い、いつだっけ?」


「二日じゃね? 次の日のバグスの試合を観に来るんじゃね?」


「泊まるんだ……」


「四日までじゃね? 掃除を手伝うんじゃね?」


 バタっ


「ママ! パパ、ママが!」


 バタっ


「パパあ! バグスう、ユウナあ、大変よ! パパとママが!」


 ウッキーとサッキーはクルクルと目を回していた。



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正しいゴールデンウィークの過ごし方 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa

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