故障した!!

@HasumiChouji

故障した!!

「我々は、いわゆる世襲政治家で……当選前から親の政治秘書なんかをやってて国会に出入りしてたんで知ってたか、そうでなくても元から国民の皆さんの平均以上に政治に関心を持ってた人の成れの果てが国会議員なんですよね。だから……何て言うか……。やっぱり注意してた方が良かったですかねぇ……? 我々にとっての『当り前』は、多くの国民の皆さんにとっては『知らない事』だって事を……」

 急遽、国会審議が全て中止される原因となった、あの事件について首相経験者の1人にインタビューを申し出たら、そんな事を言い出した。

「例えば……そうですねぇ……、国会審議を全て中継するなんて無理ですよね。国会専門のチャンネルがいくつも有るなら、ともかく……。でも、我々は、国民の皆さんの大多数が、その事を知らないのを知って驚いちゃう訳ですよ。NHKの国会中継で流れてんのが、国会の全てだと思っている人が、こんなにも居たのか、って」

「ええっと……じゃあ、あの時、総理が言ったモノは……TVの国会中継なんかでは、わざとカメラに写して無かったという事ですか?」

「写してないも何も……何て説明したら良いか……その……」

「じゃあ、質問を変えます。元総理も使われてたんですか、その……」

「いや、ウチの党が与党だった時は、基本的に使ってませんでしたので、良く知らないんですよ」

「そもそも、総理が言ってたプロンプターは……どこが管理してたモノだったんですか?」

 プロンプターとは……一般的には、演説などの内容を表示する機械……いわば「電子カンニング・ペーパー」の事だ。

 今期の国会の1日目の、最初に総理が登壇した答弁で、その異常が起きた。

 総理は数分間言葉に詰った後……泣き出しそうな表情かおになって……『すいません、プロンプターの調子がおかしいので答弁出来ません』と言い出したのだ。

「誰も気にして無かったんですよ。ウチの党が政権与党だった時は使って無かったせいで、官僚の皆さんも変な誤解しちゃったみたいで……」

「どう云う事ですか?」

「官僚の皆さんは与党の金で維持・管理してると思ってたけど、政治家の方は官僚が管理してるモノだと思ってたみたいで……」

「じゃあ……その……プロンプターに表示される原稿は誰が作ってたんですか?」

「今『表示される』って言いました?」

「ええ……」

「まぁ、いいか……後で説明した方がいいのかな?」

「何の事でしょうか?」

「まず、プロンプターの原稿ですが……官僚や政治家が、資料や答弁内容を……ある人に送って、その人が作ってるらしいんですよ」

「ある人……ですか? 一体、誰なんですか?」

「インターネット普及以降は……電子メールで送ってて、例によって、官僚は与党の職員か何かだと思ってて、政治家の方は官僚だと思ってたんですよ」

「えっと……そもそもの疑問なんですが……あの時、総理が出席されてた委員会の部屋のプロンプターが壊れたのなら……」

「そこを誤解されてるようですね」

「えっ?」

「あの時、総理が『プロンプター』と言ったのは……

「はあ?」

「舞台劇なんかで……いわば『役者さんが台詞を忘れた時や、台詞を覚えられない役者さんの為の、カンニング・ペーパーの代りをするスタッフ』の事もプロンプターと言いますが……総理があの時に言ったプロンプターは……言わば『人間カンペ』の事です。いつも、どう答弁すればいいかを教えてくれる筈の『人間カンペ』が何も言ってこなくなったらしんです」

「ど……どう云う事ですか……?」

「だから、歴代総理の答弁は……今の与党が政権を失なってた一時期を除いて、言わば『人間カンペ』が教えてくれる通りの事を言ってただけなんですよ」

「そんな……馬鹿な……」

「いや、言われてみれば、変なんですけど……それが当り前になってた上に、他に優先すべき議題が山程有ったので……」

「ちょっと待って下さい? いつからですか?」

「いつからだろうなぁ……? 私が初当選した三十年以上前の時点で……『当り前』になってたんで……」

「じゃあ、その……誰かが……無線か何かで、歴代総理に国会では、こう答弁しろと指示してた訳ですか?」

「総理と言うか……ほぼ全閣僚と言うか……」

「だから……一体、誰が、そんな事を……?」

「だから、さっきから言ってる通り、判んないんですよ……。政治家は官僚がやってると思ってて、官僚は与党関係者だと思ってた」

 そして、元総理は腕組みをしながら考え込んでいた。

「でも……まさかなぁ……」

「え……えっと……」

「ただ、変な噂は聞いた事が有るんですよ……。ウチの党が政権を取った十年以上前の時点で……プロンプター達の声は……全員が老人の声だったと……」

「へ?」

「下手したら……八十超えてんじゃないのか、って感じのお爺さん達の声だった、って……」

「あ……あの……まさか……その、今の与党を陰から操っていた誰かが居て……その人達が、最近、人知れずに齢か何かで全員死んでしまって……」

「う〜ん、それが一番、合理的な説明ですかねぇ……」

 一体全体、この国は、今まで、どうなっていたのだ? そして、これから、どうなっていくのだ?

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