『スーパーエースくんのセカンドライフ』

 トーキョーの壁崩壊から、半年。帝国軍と解放軍、東西の紛争から立ち直り日夜復興の進んでいく第2東京で、人型兵器FPAのパイロットにして、帝国側の撃数記録を持つ少年、来栖双司は、直属の上官にして専属の戦術補佐官、書類上の姉である来栖美咲から、ある命令を受ける。

「毎日毎日もう使わないFPA眺めてるくらいなら、学校にでも行きなさい。この後軍属で居るにせよ、士官教育を受ける前に……」

 と、長々続く説教染みたセリフに渋面を浮かべつつ、命令だから、と、双司はその命令を承諾し、学校に通うことになる。

 双司にとって、戦争、戦闘は娯楽なのだ。物心ついてからずっとFPAのパイロットをやっていたせいで、それ以外の娯楽を知らない。そんな双司の願いは、敵対する西側にいたスーパーエース、“フォートレス”と言うコードネームを持っていたその敵と、決着をつける事。

 だが、戦争がなければそれもままならず、やる気0でとりあえず学校に通い出した双司は、そこで、二人の少女と出会う。

 一人は、どこかさばさばした印象の、ギャルっぽい、一般人の少女。星崎杏奈。

 そしてもう一人は、自分の事を兵器の生態パーツと言い切る、小柄なアルビノの少女。チャーリー。

 二人と何となく知り合いになりつつも、日常をめんどくさがる双司は、登校初日のチャーリーがある任務を帯びているらしい事を知る。

 その任務こそ、“オペレーション明るい学園生活”。

「この任務をコンプリートすると、チャーリーは少佐に褒めて貰える!」

 と、やる気満々らしいチャーリーを前に、それに乗っかっておけば小言の多い姉への日常報告書の内容を労せずそれっぽくできるのではないかと考えた双司は、そのチャーリーの作戦の支援を提案した。それを受けて、チャーリーは、ある役職の遂行を双司に提案した。

 それこそ、役職“恋人”。

「役職“恋人”を双司に付与する。最難関のミッションを初日で達成する……。チャーリーはやはり優秀。少佐もきっと褒めてくれるはず……」

 それに特に深く考えることなく双司はうなずき、その日常は幕を開ける。

「え?……めっちゃ展開早くね?」

 と戸惑いつつも、色々よくわかっていない双司とチャーリーの面倒を見て、オペレーション“明るい学園生活”の手助けをする杏奈。

 その日常を、スナイパーライフルの銃口越しに眺め、

「……初日で堕とされるなんて。お姉ちゃんは、……双司をそんな子に育てた覚えはありませんよ……」

 と、余波をもろに受けて暴走しチャーリーを探せを始めた、保護者の美咲。

 オペレーション“明るい学園生活”を遂行したいチャーリー。そんなチャーリーと双司にとりあえずやりたいようにさせて上げつつ世話を焼くギャル。そしてそれをスコープ越しに眺め暴走するダメな姉。

 妙に殺気が飛んでくるその日常を、双司は特にやる気なく過ごしていく。

 そんなある日、テロと共に次の犯行予告、統合政府の官邸を1週間後に襲撃すると言う予告が、テロリストから出されたことにより、事態は急変する。

 また遊びが始まるかもしれないと内心喜ぶ双司だったが、チャーリーが学校に来なくなったこと。あれだけ暴走していた美咲が突然忙しそうにしだした事。あるいは、学校に来ている杏奈も表情を険しくしていることに、どこか不満を持つ自分に気付く。

 そんな折双司の前にテロリストの首謀者が現れ、双司をスカウトしてくる。

「戦争を続けよう。それが我々の望みだ。和平など今更認められないだろう?」

 そしてそんな男――少佐と名乗った男の横に姿を現したのは、学校で見るのとはまるで違って一切表情を表に出そうとしない、チャーリー。

 テロを首謀しているのは、チャーリーの上官。慕っていた保護者だったのだ。

 それを前に、……スカウトへの返事を保留にした、双司。

 珍しく深く考え込みながら帰路についた双司は、その道すがら杏奈の姿を目撃する。

 彼女に誘われ、夕食をごちそうになることになった双司が目にしたのは、アンナが一人暮らしている、家。

 家族は多かった。全員戦争でいなくなった。

「チャーリーとか……あと、ほら。美咲さんだっけ?そういう人たちがいきなりいなくなったら、悲しくない?」

 それに連なる杏奈の言葉に、自分が日常を楽しんでいたらしいと双司は気付き、テロリストの敵となることを選択する。

 そうして訪れた、テロの日。けれどテロリストと接触している双司に出されたのは、待機任務。それを不服に思った双司に直属の上司である美咲が語ったのは、更に衝撃の事実だった。

 星崎杏奈はテロリスト側の人間。帝国側のエースであり、身柄の安全確保のため情報を伏せていた双司にピンポイントでスカウトが来たのは、彼女が情報を提供した結果。

 それを知り動揺し、待機命令のまま俯く双司。それをよそにテロは始まり――かつて、解放軍側で英雄と呼ばれていた双司のライバル、“フォートレス”の出現により、戦線はテロリスト側有利に傾いていく。その報告の最中、けれど“フォートレス”はなぜだか兵器だけを無力化し、人的被害を出さないように動いているらしい。それを聞き、“フォートレス”が誰か。……自分と同じ日常を学んだ誰かなのだろうと、双司は確信する。

 そうして、……これまで本意ではなくとも一応命令には従い続けていた双司は、命令を無視し、その戦場へと赴くことを決意した。

 冷静な判断を促す美咲に犯行を続け、続けた末にゴーサインを出された双司は、FPAを駆り戦場で無双し、“フォートレス”と対峙する。

 あれだけ決着を心待ちにしていた相手を前に、けれど心が沸き立つことはなく、代わりに憤りのまま、動きの鈍い“フォートレス”をも圧倒し、双司は“フォートレス”へと問いを投げる。

「俺は自分で決めてここにいる。お前はどうなんだ、チャーリー」

 無力化したチャーリーをその場に、占拠された官邸の奥へと踏み込む双司。

 そんな双司を出迎えたのは、杏奈だった。

 少佐はもう逃げ出した。偽善の平和に亀裂を入れられた自分はもう満足。

 私の家族を奪った奴らが偉そうに、平和だとか、英雄だとか。

「……全部壊れちゃえば良い。楔はもう、打ち込んだ」

 それだけ言い捨て自殺を図った杏奈を、双司は止める。

「なんで止めるの!?大量虐殺者のくせに!」

「お前にいなくなられると、俺は多分、悲しい。……それを俺に教えたのは、お前だ」

 そして杏奈を拘束し、その事件は終息を迎える。

 逃げ出した少佐は、チャーリーの情報提供により、逃げ場所を抑えられ拘束されたらしい。

 そんな後日譚の最中、洗脳教育を受けていた可能性があると監視付きでの日常に戻ってきたチャーリーと共に、双司は一人欠けた日常を過ごしだす。

 チャーリーが、新しく渡されたメモ。少佐ではなく、“お姉ちゃん”が渡してきたと言う、新しい“オペレーション学園生活”。

『ちゃんと自分で考えて。ちゃんと、自分が楽しいように。ちゃんと、生きて?』

 その言葉を、胸に刻みながら……。

 



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