『最強の不死者狩り“山田・ヴァイスリッター・佐藤”は自称どこにでもいる普通の女子高校生』

 “不死者(アンデッド)”。古くからこの世界、人間社会の裏側に潜む不老不死の怪物達。人知れずその怪物達と戦いを繰り広げる夜の狩人たちは、“不死者狩り(ハンター)”と呼ばれていた。


 そんな、“不死者狩り”の一族。10年前の不死者との戦いで、兄と自身を残して壊滅した十狩家の党首。


「…………なんでこんな面倒な家に生まれたんだ。ハァ、僕は漫画家になりたいのに……。党首なんてアニキがなれば良いじゃないか」


 そんな男子高校生、十狩人十(とがりひとと)はある夜、“不死者狩り”の最中に強力な眷属――不死者が従えるモンスターと遭遇し、大怪我を追って窮地に陥る。


 絶体絶命のその時、ひととの前に颯爽と現れたのは銀髪の少女。右手にバスターソード。左手にアンチマテリアルライフル。そしてそれらの鞘の代わりに、特大の棺桶を担いでいるその少女こそ、――当代最強と噂される伝説の不死者狩り。


“白騎士(ヴァイスリッター)”。


 彼女に窮地を救われ、美人だったなとちょっとアンニョイなため息を吐いたひととの前に、例のヴァイスリッターは再び姿を現した。


「私は山田・ヴァイスリッター・佐藤。……どこにでもいる普通の女子高生だ。よろしく」


 ひととの学校の転入生として。


 他人のふりをしようと心に決めたモノの、その自称どこにでもいる普通の女子高生に付き纏われ、ひととの些細な憩いの場であった、マジで普通の女子高生な眼鏡の笹川さんとの漫画研究会にも土足で踏み込まれ、しかも家に帰ってもまだ自称山田はついてくる。


 ひととの兄。不死者狩りの一族の長兄に生まれながら、その力を持ち合わせなかった十狩誠十(まこと)曰く、どうやら、この応麻市に強力な“不死者”が潜伏していて、その討伐をヴァイスリッターに依頼した。そしてヴァイスリッターがその依頼を引き受ける条件が、“普通の生活”だったらしい。


 先日眷属にすら勝てなかった以上文句は言えないと、渋々その生活を受け入れたひとと。


 そうして新たな日常が始まった。昼間は学校で普通を求めているがその基準がどうやら漫画だったせいで何かがおかしい自称山田に振り回され、夜は眷属狩り、そして不死者探しに夜を駆ける。


「僕は漫画家になりたいんだよ!右手は商売道具なんだ!」

 と必死で訴えるも、

「ならば原稿をみせてみろ」

「この二重生活でいつ原稿を書けば良いんだよ!」

「寝るな!」


 と脳みそ筋肉なヴァイスリッターに言われて何も言い返せなくなり。


 自称ヴァイスリッターの永遠のライバルである不死者の少女、「お~っほっほっほ」と高らかに笑うがなんか残念な美少女、“クリムゾン・クイーン”が乱入し、勝気なクリムゾンに良くない反応をした笹川さんの一面を見なかったことにしたりしながら、その日常は進んでいく。


 だが、そんなある日、さらに強力な眷属にヴァイスリッターが大怪我をしたことにより、事態は急変する。致命傷を負ったはずなのに、ヴァイスリッターは生きていた。彼女は言う。


「私は……人造的な不死者。ホムンクルスだ」


 その事実に驚くと同時に、ひととの胸にある疑念が宿る。


 自分も、ホムンクルスなのではないか。なぜ、大怪我を追った翌日にもう、普通に動けたのか。なぜ、兄ではなく自分が党首なのか。


 そんな疑念を持ち始めた矢先、その夜のうちに再び、不死者の眷属が夜の街で暴れ始める。


 ヴァイスリッターがけがで動けない最中、彼女の武器を借り、彼女の戦い方をそっくりコピーし、“クリムゾンクイーン”と力を合わせひととはその夜を切り抜ける。

 どうして、最強の不死者と同じ動きが出来るのか。やはり……。

 そう俯くひととの前に姿を現したのは、兄の誠十。


「俺がトガリの家を継ぐはずだった。だが、力がなかった。お前は俺の実験動物なんだよ……」


 自身が最強の不死者狩りとなるため。自身が不死者となるため、誠十は実験台としてひととを使っていたと語る。真の力を見た以上、もう失敗作は必要ない。最高の実験動物も手に入っている、と。


 そうして姿を消した兄を追おうとするも、連戦の結果体力が底をつき、追いかけることが出来ず、“クリムゾン・クイーン”に手を貸されどうにか家に帰り着いたひととだったが、そこにはもう兄も、傷つき倒れているはずの自称山田の姿もなかった。


 兄の裏切り、そして自称山田を奪われたことに落胆するひとと。


 これで普通の生活が送れる。もう、不死者狩りに奔走する必要はない。そう自分に言い聞かせたひととの前から、“クリムゾンクイーン”もまた姿を消し、落胆するひととは、そのまま日常へと帰ろうとする。


 だが、憩いの場だったはずの漫画研究会が酷く寂しい。それを笹川さんに指摘されたひととは、「今度こそ漫画を書き上げるから、出来上がったら読んで欲しい」と笹川さんに伝え、兄との決戦に赴くことを決意する。


 毎夜していた不死者探しでヴァイスリッターと見当を立てていた拠点へと単身乗り込んだひととは、けれど人造不死者の研究の副産物として出来上がった洗脳。それによって敵側になったヴァイスリッタ―との戦いに攻撃しきれず苦戦し、だがその場に、“クリムゾン・クイーン”が乱入してくる。


「お~っほっほっほ!この時を待っていましたわ!思う存分白騎士を狩れるこの時を!」


 そして彼女の助けを借りて、ひととは兄と対峙する。

 兄との決戦。研究の結果自分とほとんど同じ能力を持つ兄との対決に辛くも勝利し、だが、この物語はここで終わらない。


 兄を倒した後。人造不死者の研究所となっていたその屋敷の奥にいたのは、笹川さんだ。

 彼女は言う。


「研究成果を観察するために、他人のふりをしてアナタに近づいたの」

「両親は10年前に不死者に殺されたから。殺せる兵器を作らないと」

「でも、……化け物を殺す研究をしている内に、私が化け物になっちゃったのね」


 その言葉と共に自殺を図った笹川さん。その手にあった拳銃を奪い取ることで、どうにか自殺を食い止めたひととだったが……黒幕の方が一枚上手だった。


「ひととくんはどんな物語を紡ぐの?……読んでみたかったな」


 そのセリフだけを残して、それもまた不死者狩りの副産物だろう。自身に呪いをかけ、笹川さんは倒れてしまう。


 そうして、その事件は幕を下ろす。


 洗脳が解けた後も「なんか殴られていたから殴り返す」と言う大変男前な理由で“クリムゾンクイーン”と対決し続けていた自称山田を回収し、ひととは我が家へと帰り着くと、色々言い訳して書いていなかった漫画を、描き始めた。


 後日。

 笹川さんからの洗脳が解け、だが不死者としての強化は残っている兄は晴れて不死者狩りとなり。


「普通の女子高生は3年間学校にいるんだろう?」


 と言い放ちヴァイスリッターは彼女の思う普通の生活を続け。


「……決着はまだついてない。ワタシはまだ負けてない……」


 と“クリムゾンクイーン”が暇なのか毎日遊びに来る漫画研究会の部室。

 そこにある日、記憶喪失の少女が訪れる。


「あの……私。ここに所属してたって、聞いたんですけど……」


 そう、戸惑ったように言う少女をひととは迎え入れ、彼女に約束の品物。

 やっと書き上げた不出来な原稿を、差し出した……。

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