『青春ロボットループ打破もの』(タイトル未定)

 1章

 6月25日。数日ぶりに学校に行った、取り立てて特徴のない高校生、朝木ユージは、そこで幼馴染の二人、佐野コータと美空リンに歓迎され、こういわれる。

「隕石に当たったってホント?」

「クレーター見たぞ。よく無事だったな、お前……」

 そう。ユージは数日前、6月22日に、突如空から降ってきた隕石に吹き飛ばされて、特に怪我はなかったが、数日入院していたのだ。

 そうして朝の時間を過ごしているときに、ユージはクラスメイトの一人が、自分に視線を向けてきていることに気付く。

 その少女が、東雲ミズキ。お堅く愛想の悪い少女で、クラスで孤立している子だ。

 元々、ユージとほとんどかかわりのなかったクラスメイトである。だが、数日前――それこそ隕石が落ちてきたその時に、ミズキも近くにいて、ユージと同じように隕石の落下に巻き込まれたのだ。

 その話がしたいのだろうか、とぼんやり思いつつも特にその場でそれ以上進展はなく、その日は終わりを迎える。

 そして、放課後。サッカー部員のコータと、その部のマネージャーであるリン。

 二人と別れ、ユージは一人帰路に就く。隕石が落ちてきた後、なぜか持っていた半分に割れた宝石を眺めながら。

 その帰り道、ユージは偶然ミズキと出会い、声を掛けるが、返ってきた返事は一言だった。

「今夜。……覚悟を決めておいた方が良いわ」

 意味の分からないその言葉に困惑しつつ、家に帰り着いたユージは自室で首を傾げる。

 そうして何となく眺めた窓の外で、幼馴染、家が近所なコータとリンが、楽しそうに話しながら帰路についている夕暮れを見つけ、ユージはアンニョイにため息を吐く。

 ユージは昔から、リンが好きだったのだ。それは多分コータも同じであり、そして、リンが好意を寄せているのはコータの方である。

 気が優しく、取り立てて特徴がある訳でもなく、背も低い。そんなユージは、その幼馴染の関係を3角関係に変える気にならず、言ってしまえばその恋路を諦めていた。

 そんな風に一人アンニョイに窓を眺めるユージの部屋の戸がふと開かれ、顔を覗かせた母は、言う。

「あんた……リンちゃんじゃなかったの?」

「え?何が?」

「凄い子捕まえたのね。いや、捕まったのかもしれないけど……」

「何、言ってるの……?」

 と戸惑うユージの前から母は離れて行き、代わりにその部屋に踏み込んできたのは、まるで見覚えのない、季節外れのマフラーをつけた、銀髪に赤い目の少女。

 そんな少女は、ユージの部屋に踏み込むなり、妙にハツラツハイテンションに、こう言った。

「やあ、朝木コータ君!キミをこの閉ざされしループから救いに来た、多次元パトロール隊員の……栄利アンです!」

「はい……?」

「申し訳ないがキミの彼女を名乗らせてもらうことにしました!」

「……いや、僕好きな人いるんで」

「お邪魔します!」

 と、その自称銀河パトロールのエイリアンは、ただでさえ狭いユージの部屋のど真ん中に、テントを張り始めた。それをあっけにとられたまま眺めた末……ユージは呟いた。

「……え?泊まるの?」


「まず初めに言っておくと、近いうちに宇宙怪獣の群れがこの街に現れて地球が滅びます」

 そしてそれを食い止めるためにエイリアンはやってきた……訳ではないらしい。

「こないだ隕石に当たったはずです。アレ、実は隕石ではなく我ら多次元パトロールが送り込んだ対怪獣次元兵器でして、それにぶち当たった朝木コータ君は要するに正義の味方になりました!多次元パトロール的には基本現地人が頑張るべきだと思うので!」

 そして。

「けれど、それを観測してた私達多次元パトロールはきみたちに対怪獣兵器を渡した瞬間にごくわずかな時空の歪みを検知し、時空が閉ざされ円環を迎えている可能性に気付いたのです!そしてそのループから抜け出すため!この栄利アンが来たのです!」

「……彼女を名乗るとか言い出したのは?」

「この3日間最速で勉強を続け地球人類の男子高校生と言う種族及び周囲が結果的に受け入れる可能性の高い生活上の役割として採用したのだ!」

 要はアニメとか見た結果この銀河パトロールは何かを間違えたらしい。

 とにかく怪獣が来て世界が滅ぶらしい。そんな事言われても、と、まともに受け止めなかったユージだったが、そこで突如、空が赤く染まりだし――その巨大隕石の落下を遠めに見た直後、その隕石が、動き出していた……。

「出たな、次元怪獣シェード!ユージ隊員!話は後にして……まずは出動です!」

 と言い切ったアンに引っ張られ、ユージはその怪獣の元へとちゃりをこぐ羽目になる。

 

 突然現れた怪物に騒然とする街を潜り抜け、ユージは怪物の傍へとたどり着く。

 トカゲのような胴体に虫のような足が生え、両手の代わりにカマが生えている。そんな怪物である。全長はビルより大きいくらい。

 それを見上げたユージの横で。

「さあ、今だ朝木ユージ君!今こそ地球の平和を守る時!叫べ、魂の《理想投影(リアライズ)》!」

 銀河パトロールは自分が戦う気はないようだった。そんなあれこれに振り回され、戦えって言われても……と戸惑うばかりだったユージの前で、突如、怪獣の近くに、どこからともなく巨大ロボットが姿を現す。

「アレは……ウルドパニッシャー改C装備!?」

「……詳しいのかい、朝木ユージくん」

「いや、別に、…………」

 とオタク趣味を隠そうとするユージの前で、ウルドパニッシャー改C装備――ユージが子供のころ見ていたリアルよりロボットアニメの主人公機そっくりなそのロボットは、怪獣と戦い出した。

 なぜだか、そのロボットは戦う前からボロボロだったらしい。少し苦戦しつつも無事、ウルドパニッシャー改C装備は、怪獣を倒す。

 僕の出番ないじゃん。と、思ったユージだったが、そこでまた隕石が落ちてくる。

 そしてまた現れたのは、さっきと同じ怪獣。それも2体同時に現れたそれに、ボロボロだったウルドパニッシャー改C装備は苦戦し、倒れ込み……大破の末に消え去ってしまう。

 そうして消え去った機体の中からその場に現れたのはミズキだった。

 生身になっても尚怪獣に立ち向かおうとし、怪獣に殺されようとするミズキを前に、ユージは拳を握り締め、駆け出していく。

 そうして駆け出し、懐から宝石を取り出したユージの背で、栄利アンは言っていた。

「本来説明はいらないはずなんだ。君はわかっているはずだよ。契約はもう為されてる。あとは、……叫ぶだけだ。魂の咆哮!」

「――《理想投影》!」


 2章

 翌日。6月26日。学校に向かったユージの周囲は、昨日現れたロボットと怪獣の戦いでもちきりだった。

「ユージ!お前も見たか、ウルドパニッシャー改C装備と謎の怪獣の戦い。そして現れた紅夜叉最終決戦仕様!」

 かつて夢中になっていたものが同じコータはそう熱弁していて、熱弁するコータを横にリンはつまらなそうにする。

 それに愛想笑いを浮かべながら、コータはミズキの席に視線を向けるが……ミズキの姿はそこにない。

 それを眺めながら、ユージは昨日の戦闘を思い出した。

 「――《理想投影》!」

 と叫んだ直後、ユージはコクピットにいた。紅夜叉最終決戦しよう――ウルドパニッシャーのライバルに当たるその機体のコクピットに。そして、なぜだか機体の動かし方もわかった。戦い方も、……あるいは勝ち方も。

 圧勝だ。怪獣2体を圧倒した後、機体が消え去り地面に立ったユージに、ミズキは言っていた。

「明日。放課後。……アナタの家に行くわ」

(……なんで僕の家知ってるんだろうな)

 と、一番どうでも良い部分をいまさら疑問に思いつつ、ユージの一日は終わり、そして放課後。


 喫茶店を営んでいる我が家に帰り着き、店のテーブルに付き待つこと暫く。姿を現したミズキは、単刀直入に話し出した。

「次が6月29日。その次が、7月4日。最後が7月6日。七夕の前日に、あの怪物の群れがこの街を襲うわ。私のロボットは多分もう限界。最終日は手伝う。それまでアナタがしのいで」

 そしてそれだけ言い捨てて、ミズキは去って行こうとする。

 それを呼び止め、もう少し詳しく聞かせてくれとユージが頼み、それにミズキが何かを言いかけた所で、乱入者が現れる。

「いらっしゃいませご主人様ああ~~浮気発見!」

 と言い出し乱入してきたのは我が家でバイトすることになったらしいエイリアン。

 その登場に、ミズキは動揺し、そして警戒するように問いかける。

「誰?」

「本来二人で分けるモノじゃなかったはずなんだけどな~。……で、ミズキくんは何週目なのかな?」

「何者かって聞いてるのよ」

「君がループの原因かな?」

「質問に答えなさい」

 と、言い合いを続ける二人にはさまれたユージは、ふと視線を感じて窓の外を見る。

 そこには、驚きに目を見開くコータと、あんまり興味なさそうにその光景を眺め、コータを引っ張っていくリンの姿があった。

 そんな諸々にため息を吐いたユージの元に、ふと母が歩み寄り、言い合いを始めるミズキとアンを黙らせると、ユージの肩を叩き、言った。

「アンタ……はっきりしたげなさいよ」

「いや、多分そう言う話じゃないんだよね……」

 と苦笑するユージの前で、冷静になったらしいミズキが、話し始めた。


「4週目よ、」と。


 どうやら、ミズキは隕石が落ちてきた日。6月22日から、7月6日までを、4週繰り返しているらしい。そして、その1週目。

「最初は私とアナタが逆だったわ。そしてアナタも、最初に私に会った時、同じことを言っていた。何週かずつ交互に繰り返してるのよ、私とアナタは。この2週間を」

 そしてそれを補足するように、アンが言う。

「次元兵器の力だね。無理のない範囲でなら過去にさかのぼることも可能なはずだ。そしてそれは本来、外から観測している私達銀河パトロールでも観測できないもの。けれど今回、観測できたという事は……およそ数万回はそのループを繰り返していることになる」

「数万回!?」


 と驚愕するユージをよそに、ミズキは言う。

「……その数万回の中で、銀河パトロールなんて珍妙なモノはいなかったわ」

「何と戦っているのかもなんのために戦っているのかもわからず、数週ごとにリセットして自我を保って戦い続けてたんだね。もうあきらめて時計の針を進めてみたらどうだい?」

 そう言った案を睨みつけ、ミズキは去ろうとする。

 立ち去ろうとするミズキを呼び止め、ユージは問いかけた。

「あの……ちなみになんでウルドパニッシャーだったの?その、次元兵器って……持ち主の思い入れのある形に、なるんだよね?」

 その問いへの返答は、寂しそうな一言だった。

「……結局、毎回。朝木君は同じことを聞くのね」


 3章

 何度も戦い続けているらしい。ループしているらしい。そんなことを考えながら、6月29日。現れた怪獣を、ユージは八つ当たりのように圧倒した。

 戦い慣れていることは確からしい。そんなことを思いながら戦闘を終えたユージは、友達が約束があるとさっさと立ち去ろうとし……そんなユージへと、様子見に来ていたらしいミズキは言う。

「傷つくだけよ。……自分でわかってるでしょう?」

 それを無視してユージは向かう。

 行く先は……カラオケである。

「なんかまた怪獣VS紅武者が始まったらしい!を、記念して……歌います!“吠えろ魂のウルドスマッシャー”!」

 と、ノリノリでロボットアニメの主題歌を歌い出したコータを横に、リンはユージの脇を小突き、小声で言った。

「お願いね、ユージ。……良いところで」

「う、うん……」

 と、ユージは苦笑し頷いていた。

 数時間前、リンに頼まれていたのだ。コータに告白するから手伝ってくれ、と。

 そして、良いところで離脱することを強いられる幼馴染とのカラオケの席で、好きな相手の恋路をサポートするための、ユージは頑張ってその場を盛り上げ出した。


 そしてそんな3各関係になり切らないカラオケボックスの隣の部屋。そこに、様子見に付いて来ていたミズキとアンの姿もあった。


「気になって付いてきちゃったのかい、東雲ミズキくん」

「アナタはなんでいるの?」

「地球人の生態調査だよ」

「本当の目的は何?」

「救う事だよ。朝木ユージ君を。あるいは、君をね」


 と腹の探り合いを進めるボックス席に、頑張って盛り上げようと熱唱するユージの唄声が響いていた。


 カラオケ終わり。ウインクしてきたリンの合図に従い、二人と別れ一人帰路に就くユージ。

 その手にあったのは、盛り上げるために使用したタンバリン。

「……間違えて持ってきちゃった、」

 と肩を落として帰路に就くユージを、ふと姿を現したミズキが呼び止めてくる。

 少し話さない?と。


 近場のファーストフード店で、ミズキは言う。

 自身の送ったこの4週の話をする。

「1週目。私は何も知らなかった。アナタに頼りたかった。アナタは4週、経過済みだったから。その時のアナタも、今と同じことをしていた」

「2週目も3週目も。同じ行動をとる。多分、アナタがループしていた時も、アナタは傷つこうとしてた。自分で結果がわかってても。私がいくら忠告しても」


「毎回タンバリン持ち出してる。流石にアナタが周回してる時はなかったでしょうけど」


「返しに行かないと、」

 と呟いたユージに、ミズキは言った。今すぐ行きましょう、と。

 それに戸惑うような表情を浮かべたユージに、ミズキは言う。

「……3週目も。ここは、楽しかったのよ。他はもう味気なく手仕方なかったけど」

 そして若干照れたようにそっぽを向き、ミズキは言った。

「なんでウルドスマッシャー改C装備か。……別にロボットアニメ好きで良いじゃない。パパが悪いのよ」


 そして、ミズキと共にカラオケに向かい、普通に遊び、普通に楽しかった。

 気分転換になったな、と軽い気持ちで家に帰り着いたユージ。

 だが、家の前にはリンの姿があり……リンは涙ながらに、ユージへと訴えてきた。

「……コータに。フラれちゃった」


 4章

 7月1日。ユージの日常は怪獣とは違った意味で壊れていた。

 コータとリンが話さないのだ。それに苦笑を浮かべるどころではなくなり……そして、そんな日。珍しくミズキは学校に来ていた。

 放課後。


「どうすれば良いかな?」

 相談したユージを前に、ミズキは若干苛立たしそうに、言う。

「……ほっといても勝手に仲直りして勝手にくっつくわよあの二人」

 そして立ち去ろうとするミズキの前に、突如姿を現したのは、アン。

「突き放すために学校に来たのかな、ミズキくん?」

 と示唆的なことを言ったアンに苛立ち、それからため息一つ、ミズキは言った。

「アナタがやっていたことを、教えるわ」


 そして、ユージはコータとリンの中を取り持つための行動を、始める。


 7月2日。

 ユージは学校をさぼり、遠くから双眼鏡で教室を覗き込んでいた。

「アナタが来ない、って話題が出来るんですって。気まずさに耐えられなくなるって」

「ほほう……策士だね周回ユージくんは」

「数回同じことやってるんだし……トータルで数万回やってるなら、少しずつ最適化されてるんじゃない、行動が」

 とか言い合うミズキ、アンと共に、その監視を終え……そして放課後。

「最初の電話は無視してたわ」

 リンからである。

「次は出てた」

 コータからの電話に出て、ユージはコータと話す。リンとのフったフラれたの話はなく、ただユージの体調を心配するコータに、ユージは問いかけた。

 リンと喧嘩でもしたの、と。

 それにコータは沈黙を返し、それから、別になんでもねえよと、その話を打ち切ってくる。

 そしてくだらない話題に終始し、その電話は終わった。

 そしてそれが終わった後、またかかってきた電話。今度はリンからのそれを眺めたユージの手から、ミズキは電話をひったくり、スマホの電源を切ってしまう。

「……僕がそうしたの?」

「……これで4回。私がこうしてるの。なんか、ムカつくのよ」

 と言って電源の切れたスマホを返してきたミズキに、アンが言う。

「つまり全周回でなんだかんだここまで付き合ってると……?」

「アンタは何のためにいるのよ。何も変わってないんだけど?」

「地球人の事情は地球人に任せるべき、と言うスタンスですので」


 そして、帰路についたユージ。の、家の前に、今日もリンがいた。心配してるのか、心配して欲しいのか……ユージに声を投げようとしたリンは、けれどユージのほかにほぼいるだけとはいえ見た目美少女のエイリアンがいることに気付き、何も言わず、立ち去って行ってしまう。

 それをエイリアンは眺め、言った。

「……あれが好きなの、君」

「あれとか、言わないでよ。僕は……」

 そこで言葉を切り、ユージは自室へと戻る。

 そうして、巨大なテントのある自室で、能天気なエイリアンを無視しながらユージは考え込み、ミズキに電話を掛ける。

「どうしたら良いかな」

『知らない』

 の一言だけでミズキは電話を切った。と、思えば次の瞬間。今電話を切ったばかりのミズキから、すぐさま電話がかかってきて、ミズキは言う。

「朝木君の思う様にしたら良いよ。私が何も言わなくても、毎回そうだったから」


 そして、翌日、7月3日。その日は普通に学校をさぼり、悩み考え込み、そしてその日の夕暮れ。

 ユージはコータの家の前に待ち構え、コータに殴りかかって行く。

 背丈が違う。身体能力が違う。それでも挑みかかり、イラついたコータにボコボコにされながらも、ユージは不器用に思いのたけをぶちまける。

 リンが好きだった。諦めようとしてた。なんでフってるんだ、と。

 それにコータが答えることはなく、その横っ面を、ユージは思い切り殴りつける。

 そして、殴るだけ殴って、ユージは我が家へと戻って行った。

 その夕暮れ。家が近所だから、ユージは窓からその景色を眺めていた。ユージに殴られたコータが、リンの家のチャイムを押している様子を。

 それを、嬉しい訳ではないけれどもやもやが少し晴れたような気分で眺めたユージのスマホに、電話がかかってくる。

 リンからだ。

「なんで、喧嘩してたの?」

 その話の流れの中で、ユージはリンに告白する。

「前から好きだった」

 と。それに、リンは答えた。

「知ってる。……ごめんね」

「うん。……あのさ。僕、……その、」

「……まだ友達でいてくれる?私とも、コータとも」

「うん」

「……ごめんね。ヤな娘で」

 そして、その電話が解けた。見下ろす先の景色では、電話を終えたリンが、訪れていたコータの元を訪れ、二人は何か、話していた。

 それを最後まで覗き見ることなく、ユージはカーテンを占める。

 そんなユージに、エイリアンはいつから用意していたのかひたすらぬるい缶コーヒーを差し出し、それから言った。

「お疲れ様、朝木ユージ君。どうやら、怪獣になど襲われずとも忙しいらしいね、地球人は」

 そして、エイリアンは言った。

「そしてこのタイミングで親切にすることを地球人はずるいと言うのだろう?」

「……いや。ありがたいだと思うよ?」

 と、苦笑したユージのスマホに、そこで電話がかかってくる。

 電話を掛けてきた相手はミズキだ。ミズキは、端的に言う。

『………平気?』

「うん」

『……なら、良いわ』

 そして電話は切れた。

 そんなスマホを眺め、ユージは呟いた。

「……やっぱり、ズルいなのかも」

「難しい話のようだね、朝木ユージくん!」

「そうだね」

 そして、その次の日の7月4日。

 朝っぱらから多く現れた怪獣を、友達を守るためと奮起し、全て倒したユージ。戦闘を終えたユージのスマホに、着信通知がたくさんあった。

 のろけを聞かされるんだろう。そう思いながら、電話に出たユージの耳に届いたのは、リンからの、問いだった。

『わざとやったの?』

『どうして?』

『…………友達でいてくれるって、言ってたのに』

 意味が分からない。わかりたくないとスマホを取り落としたユージが目にしたのは、怪獣によって壊された街。怪獣の攻撃によって崩れた家と……真っ赤な地面。

 家の下敷きに、はみ出た腕と、それを前にしゃがみ込み、スマホを耳に当てながら、呆然とユージを見つめるリン。

 その唇は、動いていた。

 どうして?


 4章

「――どうして何も言わなかった!?」

 7月5日。ミズキのむなぐらを掴んだユージを前に、ミズキは言う。

「2週目は言ったわ。一週目に私が見たアナタは、全部律義にこなしながら、見殺しにしてた。それが気に食わなかったから、私は2週目。アナタに助言をした。結局、あの子はアナタを選ばなかった。それでもアナタは満足していた。忠告もした。アナタは今日日常を過ごしていた。7月7日、七夕。お祭りがあるでしょう?デートするんですって。浴衣を選ぶんですって。アナタはそれを手伝うんですって。でも、七夕は来ない。7月6日でこのループは終わりだから。結果は変わらない。死ぬ日付が変わるだけよ」

 苛立たし気に、

「3週目。私はアナタに関わろうとしなかった。アナタの方がかかわってくる分だけ。この集会と同じだわ。それを我慢して私はこなした。毎回律義に失恋するアナタを眺めて、毎回律義に友達を失くしたことを嘆くアナタを眺めて……そして持たないことに気付いた」

「だからこれが4週目。もう私は記憶の継続を望まない。リセットして欲しい。じゃなきゃ、多分……次の周回で私は壊れる。わかるのよ。わからない?でも、いずれわかるわ。だってあなたも何週もするんだから」

 そう言ったミズキを苛立たしく睨みつけ、ユージはミズキに背を向け、立ち去って行く。

「……どうしようもないのよ」

 その呟きを聞かなかったことにして。


 ただ、放浪する。ただ放浪するユージに、そこで、電話がかかってきた。リンからだ。恐る恐る、その電話を耳に当てたユージに、リンは言う。

『あ、ユージ。あのさ……初デートで浴衣着る女って、重いかな?』

「………………っ、」

『昨日ね。約束したの。ほら、七夕にお祭りあるでしょ?デートしようって、コータがこないださ、マジメな顔で言ってたから、気合入れようかなって。コータ、来てくれるよね?」

「……っ、」

 それ以上聞いていられず、ユージはスマホを投げ捨てる。

 そしてしゃがみ込んだユージの前に、現れたのはアンだ。

「そして君はやり直すことを選択したのかな?毎回律義に友人二人の幸せを願い続けた末に諦めて、他人にループを委ねた」

「一番賢い選択を教えてあげるよ、朝木ユージくん。……諦めてしまえば良いんだ」


 その言葉を無視し、ユージは壊れた街を放浪し続ける。

 そうしていつの間にか夜になり――空が、赤く染まった。

 落ちてきた怪獣――元凶であるその災厄を睨み上げ、ユージは呟く。

 「――《理想投影(リアライズ)》!」


 そして、ただただ数だけの多い怪獣たちを八つ当たりのように殺し続け、紅夜叉は真っ赤に染まり――そして、怪獣の群れを殺し切る。

 そうして怒りのままに力を振るったユージの前に、現れたのは傷ついたウルドパニッシャー。

 ミズキは、ユージへと武器を向け、言う。

『私の周回は終わりにするつもりだった。でも……今のアナタを次の世界に行かせるわけにはいかない』

「何を言ってるんだ?」

『理屈はわからなかったの、ずっと。結果論でそうなってただけ。アナタか私、どちらかが死ぬと残った一人がループする。この周回で初めて分かった。本来一人が得るはずの力を私たちは分けてる。だから、どちらかが消えないとポテンシャルが発揮できない。次元を飛び越えられない』

 そして、ユージへと攻撃を仕掛けてくる、ミズキ。

 だが、これまでの周回で傷ついたウルドパニッシャーは弱く、ユージにあっさりと組み伏せられ……そして苛立ちのまま止めを刺そうとしたユージに、ミズキは言う。

『ええ。……終わりにして』

 そこで、ミズキがユージをループさせるためにわざと呷っていたのだと勘付き、動きを止めるユージ。

 そんなユージへと、止めを刺しそびれていたらしい怪獣のうちの一体。死にぞこないのそいつが最後の反撃を繰り出してきて、ユージはソレに対処できず、咄嗟に動いたミズキが、ユージの身代わりに致命傷を受ける。

 そんなミズキの仇と怪獣にすぐさま止めを刺したユージだったが、けれど時すでに遅く、空が、これまでとは比べ物にならない程に夥しく、赤く、多くの隕石に染め上げられる――。

 そして、死にかけのミズキの声が、ユージの耳に届いた。

『わかるでしょう?勝てないの。守り切れない……』

『結末は酷いモノよ。でも、マシな世界が続いてる。守りたいの。守ろうと思ったの、アナタも……嘘でも。一人では抱え込めない。だから、バトンタッチした』


 そのミズキの声を聞きながら、ユージは現れた夥しい数の怪物へと、挑みかかって行く。

 そんなユージの耳に、ミズキの呟きが届いた。


『隕石が落ちてきた日。……私があなたを呼び出した』

『告白したかったの。しようと思ってたの。アナタ、どうせ覚えてないでしょう?私学校でうまく振る舞えなかった。アナタだけちょっと優しかった』


『1週目のアナタは辛そうだった。だから、肩代わりすることにした』

『2週目のアナタは、私の好きなアナタだった。だから、幸せになって欲しかった』

『3週目は関わりたくなかった。どうせつらい思いをするだけだから。でもアナタがかかわってくる』

『今は、……私ももう限界なの。いっぱいいっぱいなの。助けて欲しいの……アナタに』

『ごめんね。忘れさせて。……休ませて?少し、休んだら、また、私……』


 頑張れると思うから。

 それが多分、ミズキの最後の言葉だったのだろう。それが届いた瞬間、ユージの視界が、真っ白に染まっていく――。


 目覚めたユージは病院のベットにいた。多分、入院中なのだろう。隕石が落ちてきて、それに巻き込まれて。

 ループが始まる。自分が死ぬか、ミズキが死ぬか。それで続いていく、ループ。

 だが、もうループじゃない。ロジックがわかってる。

 分散した力を一つにまとめれば、世界は救われる。

 考え込み、半ば抜け出すようにナースの静止を振り切り、病室を抜け出す。

 そうして動き出そうとしたユージの前に現れたのは、ミズキだった。

「朝木、くん……?えっと……」

 ……1週目の、ミズキ。ループの事を何も知らない、ミズキ。

 そんなミズキを前に、何も言わずユージは立ち去ろうとして……だが、そこで拳を握り締め、ユージは言う。

「7月7日。七夕にさ。お祭りあるんだって。知ってる?」

「え?……うん」

 と、おずおず頷くミズキへと、ユージは言った。

「良かったら……一緒に行かない?お祭り」

 そう言ったユージを前に、ミズキは驚いたように、そして照れたように視線をさ迷わせ、それから、こくりと頷いていた。

「ありがと」

 それだけ言って、そのままユージは駆け出し掛け、それから、思い出したように言う。

「あ、それとさ」

「はい!」

 と、なにやら背筋を伸ばして言ったミズキに、ユージは言った。

「変な宝石持ってたら、貸して貰えない?多分、必要な物なんだ」

「…………はい、」

 と、掛けた宝石を差し出してくるミズキからそれを受け取り、そのまま、ユージは駆け出していく。

「デート。……誘われた?」

 と、ただただ平和なことを考えているミズキを、その場において。

 そして、屋上に立ち、まだ壊れていない街を眺め、空を睨みつけたユージは、掛けた宝石を合わせて、叫ぶ。

「――《理想投影(リアライズ)》!」

 そして、ユージは宇宙空間にいた。コクピットの中――夥しい数の隕石。怪獣の群れを目の前に。

 そしてそんなコクピットの中に、見覚えのあるエイリアンが現れる。

「あ~、ちょっと君キミ!早い、早いよ~召喚が。ずばり何週目ですか?」

「まだ2週目」

 そう答えたユージに、アンは「まだ?」と首を傾げていた。

 そんなエイリアンへと、ユージは覚悟を決め、こう言い放った。

「これから、何週でもやる。勝つまでやり続けるから、まだ、2週目」

 そして少年は、世界の滅びへと、立ち向かって行った――。


 エピローグ

 7月7日。

 七夕のお祭りがあるらしいその日、ミズキはその会場へと向かっていた。

 そうしてお祭り会場に向かったミズキは、ユージの友達の二人がいる事に気付く。

 なんか暢気に、

「アイツが誘った割にアイツ来なくね?」

「ね~」

 と言っている二人に声を掛けるべきか迷う一週目の、人付き合いが苦手なミズキに、突然声を掛けてきたのはアルビノの少女だ。

「正気じゃないよ絶対……。迂闊に声かけて損した……結果巻き込まれた……。13万3454回リトライですよ?完勝するまでやり続けるってヤバいって……しかも毎回戦闘中に思い出したように友達に電話かけんの。地球人怖いよ……」

 そしてその謎の少女はくたびれ切ったように崩れ落ちる。

 そこで、ユージもまたその場に姿を現し、ミズキの元に掛けていく。

 それに少し小言を投げてきたコータに、ユージは言った。

「アレ、ダブルブッキングになっちゃった。僕、東雲さんと約束してるから。……二人で回りなよ、お祭り。リンだってほら、……気合入れて浴衣着てるみたいだし」

 そのユージの言葉に顔を見合わせ、それからお互い視線を逸らすリンとコータ。

 その二人をほほえましく眺め、それからユージは、ミズキへと言った。

「行こう。……そう言えば、隕石落ちてきた日。何か僕に言いたいことあった?」

 そう問いかけたユージを前に、……1週目の、何も知らないミズキは困ったようにそっぽを向き、それから言った。

「別に。……何でもないわ」

 ただただ、平和な悩みだけ、胸中に抱えながら……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一人あらすじ選手権 蔵沢・リビングデッド・秋 @o-tam

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ