『金と墓場な学園結婚生活(仮)』

「お願い。……私と結婚して?ね?良いっしょ?」

 島一つが丸々学校となっている、私立金神学園。その第一校舎の屋上である日、自分をエリートだと信じて疑わないがり勉の偏屈な少年、孤島一史は、“遊び人”の二つ名を冠する学校1適当に生きている少女、園田遊貴に、そんな告白をされた。

 が、当然答えはノーだ。エリートである一史には魂胆は読めていた。

 私立金神学園には、他の学校と一線を画するある校則がある。

 それが、学園内通貨“金神ドル”と、学校のあらゆるクラブ活動に与えられる、“金神株”。

 そして名門にして数々の名経営者を輩出してきたこの金神学園のスローガンは、

“失敗は早い方が良い”。

この学校では、功績の全てが“金神ドル”に変換される。雑に言えば、成績1位を取ればこの島の中では億万長者になれ、そしてエリートを自称するだけあって、一史の成績は上位。

そしてがり勉ゆえにそれなりにため込んでいる。そんな一史に、スローガンと理事長の家庭不和を理由に制定されたシステム、“結婚”を申し出てきたのは“遊び人”。

“遊び人”は供述する。

「……ちょっと入れ込んでた株があれしちゃって。ね?良いっしょ?」

 だとしても当然答えはノー。顔が良かったにしても金遣いの荒い奴はノー。破滅が目に見えてるからノー。“遊貴ちゃんが何でもしてあげる券”を3枚貰ったがノー。金遣いも他も軽そうな女はノー。いえ僕好きな人いるんで……。

「え?誰?……言っちゃいなよダーリン?」

 一史の憧れの相手は、この学園の生徒会長にして理事長の孫、金神満留。学年1位で、真面目かつお堅い古風な少女。故に少し、周りから距離を置かれているが、一史は憧れている。

「え?……みっちゃん?アタシ友達だけど……。紹介して欲しい?代わりに、」

 そして一史は“遊び人”と結婚することにした。彼女の抱えた借金――この学校では所持“金神ドル”が0円になると退学になる――を、返済しきったら離婚すると言う契約で。

 そして、一史の日常が始まる。

 大体の元凶である理事長主催の元、無駄に壮大かつ大々的に結婚式を開かれ。

「……墓場に夢を見るな。そこには絶望だけがあると、知るが良い若人……」

 と仲人を務めた元凶の理事長が仲人を務めながら深淵の底のような眼をしたまま言ってきて、遊貴の友人代表として一史の意中の相手である金神満留が結婚祝いの祝電を投げてくると言う軽い地獄。

 そして一史の友人代表が存在しないと言う本当の地獄を経た末に、その新婚生活は幕を開ける。

 “結婚”と言うシステムの結果同居することになった一史と遊貴。当然のように家事を放棄する遊貴に家事を差せるため、3枚ある“なんでもしてあげる券”を早々に1枚消費させられるなど諸々ありつつ、条件である満留の紹介を訴えた所、更に“何でもしてあげる券”が一枚消費される。

だがそのかいあり、遊貴の手引きの元、一史は満留と知り合いになる。

「仲良く、致しましょう。……友人の亭主なのですから」

 と、早速一線を引こうとする満留に、

「いえ。金の関係が終わったらすぐ分かれるので」

 と、それだけ断っておく一史だったが、

「…………そう言う軽い考えはどうかと思いますよ?結婚したのでしょう?」

 ……真面目な満留の融通が利かないと言うトラップ。そしてそれを見ながら“遊び人”はげらげら笑っていた。

 まず離婚をする。それを目標に一史は遊貴の借金。一史が一時立て替えたとはいえ数字はばっちり記憶しているその分を遊貴に返済させるため、一史は動き出す。

 学園株に手を出し、上手い事遊貴に金を稼がせ返済をさせて行き……だがその最中、遊貴が別に借金をしていた相手が現れ、ある程度返済の目途が立っていたはずが、借金が倍増。更に遊貴を明らかに小ばかにして来るその男に、一史は亭主として、啖呵を切る。

 そうして借金は倍化。一史すらも借金生活となり、食事は配給のパンの耳のみ。

 だが、一史の啖呵で何か心変わりがあったのか、若干しおらしくなった遊貴は一史の分の家事も自発的にこなし、

「パンの耳を美味しく食べるの得意なんだよね?」

 と、料理は全て受け持ちだす。更に遊貴は、これまで積極的には見えなかった借金返済、そして一史の恋路の手伝いに積極的になり、返済の方法として、“自分がかかわったクラブの業績を上げる事”を提案してくる。

 そして遊貴が一史を誘ったのは、“漫画研究会”。

 遊貴ともう一人しかいないと言うその研究会に赴いた一史の前に現れたのは、満留。

 生真面目な満留だったが、娯楽として漫画は好きだったらしい。勉強一辺倒で漫画すらろくに読んでこなかった一史は、「大好きです。……漫画」と嘘を吐き、漫画研究会に入る。

 そして、次の文化祭で発行する同人誌。その売り上げをそのまま借金返済に充てることにして……。

 そうして、めんどくさい三角関係は進んでいく。

 一史と満留の中を進展させるべく、いろいろと親身に助言をしてくれる遊貴。

 だんだんと一史と仲良くなっていきながらも、遊貴の亭主だからとあくまで一線を引こうとする満留。

 そんな二人の間でどうしても揺れ動いてしまいながら、やがて文化祭の日が訪れる。

 そうして訪れる、物語の決着とは……。

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