感情にまで鮮やかな色を感じる良作です

火の国ネイクーンを守護する水の精霊、そして幼くして出会った第二王子。二人が何年にも渡り、幾多の困難を越えて織りなす、恋愛を主軸に置いた群像劇です。

何よりも圧巻は、無駄がなく端的な筆致です。極力過分な描写を省き、それでいてぎゅっと上手に詰められた情景や心情は、本当に色鮮やかで躍動感に溢れ、読み進めていくほどに、ありありと絵が浮かんできます。それでいて読み易い事が、お勧めする理由のもっとも大きなひとつです。
同時に物語を彩るのが、個性的な多くの登場人物達です。群像劇に於いて個性の書き分けは凄く難しい部分のはずですが、非常に巧みに色分けされている為、ここもまた、「これはどこの誰だっけ…」等、引っ掛かる事なくすんなり読めてしまいます。

物語自体は、微笑ましい展開の多い王子の幼年期から始まるのですが、少しずつ年を重ね、立派になっていくにつれ、水の精霊には精霊としての問題が、王子には統治する一族ならではの危難が…と、恋愛のみに留まらない多くの辛苦が二人を待ち受けています。
特に後半、降りかかる受難はあまりに壮絶ですが、それでも読み進めてしまうのは、偏に水の精霊の変わりゆく様と、王子の着実な成長、そして一切の淀みがない二人の相思相愛があってこそ。いつの間にか家臣の様な目線で見守ってしまう事請け合いです。

最後になりますが、この物語はハッピーエンドを公言しています。どれほど苛烈な展開であっても、ゴールが決まっているんです。
余計な事を考えずに読めて、素直に先の展開が気になってしまう…そんな物語にまだ出会っていない方、是非ご一読をお薦めします。

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