第9話 その後
その後、ローヤカバ前防衛大臣とゲーハさんの話は王都へ瞬く間に広がった。
かなりの問題ありな二人だったらしく、ゲーハさんは陣正士という立場を悪用して、色んな魔法陣を弄り回していたの。
それで多額の報酬を要求していたという訳。
民間人の家の魔法陣も勝手に改ざんしては金銭を要求していたみたい。
本当に極悪人よ。
今回の結界に穴を空けた件でもローヤカバ前防衛大臣からの多額の報酬が支払われる予定だったみたい。
図書館で権力ありそうな人に媚を売って仕事を貰っていたのね。
それでいて私には当たり散らしてどうしようもない人よね。
今日は何故だか私、おじ様に御呼ばれしているの。
噴水の広場に集合というから来てみたけど。
凄い人の多さ。
みんなそんなに何を見に来たの?
そう思って眺めていると人だかりの前に立っていた人が手招きしている。
なにかしら?
近づいて行ってみるとおじ様だった。
「あら? おじ様、私を呼んだのはどうして?」
「何も知らされていないのかい?」
「はい? 私はおじ様が噴水の広場に来るようにって言っていたということしか聞いてませんが?」
頭に手を置いてため息をついている。
おじ様も大変ね。
私は別に気にしていないけど。
「すまない。今日はアヤメさんへの勲章の授与と任命式だったのだよ」
「えっ!? それで、こんなに人がいるんですか? 皆さん、お手伝いか何かで?」
「ははは。違うよ。アヤメさん。あなたの表彰を是非見たいと集まってくれたのだよ。慕われているね?」
そうなの?
私の表彰式にこんなに人が集まるなんて考えられないわ。
なんだか不思議がっていると。
「この王都の人達はみな、一度はアヤメさんに助けて頂いているんですよ?」
一人のご婦人が声を掛けてくれた。
この人はたしか……。
「フランソワさん、ですよね?」
「そうでございます。覚えてくれていたのね。ありがとう」
「私が助けたというのは?」
ご夫人は笑顔になり話してくれた。
「だってぇ、そうじゃありませんこと? みんな一度は魔法書を探しに図書館へ行くことがあるはずよ。その時に必ずアヤメさんが自分に合った本を探してくれる。みんなそうして育ってきたの」
「そういうことね。それなら、手助けはしているかもしれませんね?」
「そうよ。だからアヤメさんに助けて貰って私達は生きていると言っても過言ではないわ!」
いえ、過言だと思うわよ?
「皆さん、アヤメさんをお祝いしたいという事でしたので、大勢で集まるのをよしとしました」
「それはありがとうございます」
「いえいえ。それでは始めましょうかね」
小さいステージが用意されていてそこに上る。
中央を向いて話に耳を傾ける。
「これより、表彰と任命式を行う! 礼!」
みんなで一斉に礼をする。
「アヤメ殿、貴殿はこの度国家転覆を目論んでいた犯罪者を見つけ、犯罪者の計画を阻止しました。その功績を称え、ここに勲章を授与します」
「はい!」
それは陣正士用で初めておじ様が作ってくれたみたい。
勲章は本を模ったもの。
私にぴったりで嬉しくなった。
ブローチのようなもので、プラチナ製でできていて、リボンが付いているの。
ブレザーの胸元に付ける。
「「「わぁぁぁぁぁ」」」
凄い歓声があがった。
長く《・・》生きてきてこんなもの貰ったのは始めて。
生きて入ればこんなに嬉しいこともあるのね。
「それとは別に、国家転覆を目論む犯罪者を捕らえたとして報奨金も出ます。それは後程」
「ありがとうございます」
深々と礼をする。
また美味しいものが食べられそうで嬉しいわ。
今度は何を食べようかしら。
新しくできたスープ屋さんに今度はいってみようかな。
「ゲーハさんはアヤメさんに突っかかっていたようだね。目撃者が多数いたよ。嫌がらせを受けていたんだね」
「はい。でも私が我慢すれば済む問題だったので」
「それが、こんなに大事になったというわけだ。まさか国家転覆の目論んだ罪を被らされるとは思っていなかったでしょう?」
「はい。驚きました。と同時に、捕まえに来た国の兵達にガッカリしました」
「それは、本当に申し訳なかった。あの時は水面下で動かれていてね。私は気付いていなかったんだ」
そう言ってみんなの前で頭を下げた。
おじ様がそんなに簡単に頭を下げるものではないですよ?
「私は、おじ様に頭を下げて貰っては困ります。私もまたおじ様に助けられた身ですから。おあいこですよ?」
ウインクをすると場が明るくなった。
「アヤメさんには敵いませんな。次に、任命式を行います!」
拍手が起きる。
任命式? 何に任命されるのだろう?
「アヤメ殿を王都図書館の司書官長として任命する! これによりアヤメ殿は国の職員となります! それは、よろしいですか?」
国の職員? それって……。
「あの、おじ様? 陣正士との副業って……」
「はははっ。アヤメさんだけ、特別に許可しましょう。その代わり、国の管理している魔法陣の陣正を優先的に頼みますぞ? あっ、もちろん報酬はしっかりと出ますので」
「それはありがたいです。それなら、お受けいたします」
「「「おぉぉぉぉぉ!」」」
再び歓声が上がった。
そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいわ。
それからの私も忙しく動き回っていたわ。
新しく部下として司書官が加わったの。
名前はサルビア。賢そうな名前よね。
私に憧れて志願してくれたんだそう。
同じような陣正士になりたいと言ってくれているのよ。
「本を借りに来ました。初球の魔法書が読みたいんですけど」
そう言って借りに来たのは少し幼さの残る女の子。
小等部の高学年くらいだろうか。
こういう子にこそ、自分にあった魔法書が必要よ。
サルビアに目配せをしてやってみるように促す。
「あなたの好きなことはなに?」
「あたいは、絵を描くことが好き!」
「そうなんだ! なんの絵を描くのが好きなの?」
「んーとねぇ、お花かな!」
「いいわよねぇ。お花。どういう風に書くか教えて貰える?」
「うん! こうボヤーッとみて、形を同じように描くの。その後に好きな色をぬるんだぁ!」
うん。この子は感覚派っぽいわね。
サルビアも頷いている。わかったみたいね。
その子を連れて奥に進んでいく。
私も気が気じゃない。
「本当に好きなのね! 本の所に案内するわね?」
「うん!」
感覚派の子に合う初級の魔法書は、この列の奥の右側の少し上。
サルビアがその場所に行って私が思っている魔法書を渡した。
思わずガッツポーズしてしまったわ。
サルビアがこっちをチラッとみて合っているかを確認してきた。
サムズアップしてニコッと微笑むとホッとした様子で貸し出し手続きを始めた。
ふふふっ。
教えたのを覚えるのが早いわね。
さすがは、私の一番弟子。
私みたいになりたいって言って来てくれたのよね。
それがすごく嬉しくて。
今までは陣正士だっていうことを公にしないで活動してきたから。
特級陣正士なんて命を狙われてもおかしくないわけだし。
これからも隠しながら過ごすつもり。
まぁ、王都の人達には知られてしまったけど。
私は魔法陣が好きだから、陣正士という職業も好き。
でも、この司書官という職業はそれ以上に好き。
私は魔法書に囲まれて生きていたい。
それが私の人生。
その司書官、この国唯一の特級陣正士なり ゆる弥 @yuruya
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