第4話 防御魔法陣の強化
以前来た初老の男性が尋ねてきたのは、閉館時間間近だった。
あれ? あの人は……。
「こんばんは。アヤメさん。突然訪ねてきてすみません。ちょっとお願いがありまして」
「はい。何でしょう?」
「大型案件なんですが。実は、王都の防衛魔法陣を見て欲しいんです。というか、強化して欲しいんです。報酬は弾みます」
「はい。私でよければ、やらせて頂きます!」
報酬にはあまり興味はなかった。
でも、あの魔法陣なら私の方がいいかも。
そう思い、その提案を快諾した。
「ありがとうございます。それでは、早速、行きましょうか」
「今からですか?」
「はい。もうすぐ閉館時間ですよね?」
「そうですが……わかりました」
まぁ、この後は予定がある訳では無いし。
このおじ様に付き合ってあげましょう。
「少しお待ちください」
そう断りを入れてカウンターの隣の出入口の扉を閉めて鍵をかける。
そして、事務室に入り、鍵を戻して部屋を出る。
「お先に失礼しまーす」
そういって事務室を出る。
ゲーハさんが何か言いたそうだったけど、無視してきちゃった。
ま、いいよね。
おじ様を裏口に案内する。
「閉館後はコチラから出るんです。どうぞ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
裏口から出ると、今度はおじ様の案内について行く。
着いたのはまた防衛基地であった。
軍の関係者なのかしら?
でも、ヘタに聞いて口封じとかされたら嫌よね。こういう時は、慎重にことを運ばないとね。
「さぁ、ここです。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
中は物々しい雰囲気で重厚感のある鋼鉄製の建物であった。
その地下に巨大な空間がある。
そこに、現代陣で描かれた魔法陣が存在していた。
王都くらいの規模の街を囲もうとすると緻密な魔法陣をかなりの大きさで描かなければならず、まず理解するのに一日かかるのだが。
「どのような強化をお望みですか?」
「そうですな。対魔物のランクを現在はFからBランクまでしか行っていません。それなのに、近くにAランクの魔物が接近しているのと言うのです。これは由々しき事態。その為、Aランクまで耐えられる結界に強化して欲しいのです」
「なるほどぉ。わかりました。以前これを描いた時は出来なかったでしょうけど、今なら出来ますので、問題ありません!」
「えっ? 以前?」
何やら困惑しているみたい。
でも、私はお構い無しに魔法陣を改良していくの。
Aランクを防御するなら、結構細かい作業が必要になるのよね。
一時間かけて描きあげた追加の部分はもともと緻密だったものが更に細かく模様のように描かれている。
「はい! 終わりました! 最後にここを繋げれば……」
ピカーッと眩い光を放って王都中を光が駆け巡り、結界を更に強固なものにした。
「これで終わりですけど、どうやってAランクまで防御できるって証明しましょうか?」
「私に考えがあります。こちらへ」
先導された方についていくと外へと続く通路がある。
そこから外に出ると取り出したのは魔石。
それに魔力を流し込んでいる。
「それって?」
「この結界、魔石は弾かれません」
えぇ。そうね。弾いてないもの。
入口以外からは人も通れないしね。
「しかし、こうして魔力を込めた魔石は弾かれるんです」
ブンッと結界へ向けて投げた。
バリッという音と共に弾き返された。
「へぇ。知りませんでした。」
「これでAランクまでの魔物が入れないことを確認できました。有難う御座います」
「いえ。またご入用でしたら、その時は私にお申し付けください」
「これが報酬です」
また紙に包まれた札束だった。
少し開いて見てみる。
ざっと200万ゼニーある。
今日はこれで美味しいものでも食べよぉっと。
新しくできたケーキ屋さん行ってみたかったのよねぇ。
「ありがとうございます。おじ様」
「いえいえ。こちらこそ。助かりました」
軍関係の方かしら。
いけないわ。聞かないようにしないと。
「それでは、私はこれで」
「私が出口までご案内します」
また先導してくれた。
私も一人で帰れるけど、何処かに入られたら困るものね。
きっとそういう意図もあるんでしょう。
「どうぞ」
「ありがとうございます。では、また何かありましたらお会いしましょう」
「えぇ。そうですね。また」
おじ様に見送られながらケーキ屋を目指した。
今日はラッキーだったなぁ。
まさか以前私が描いた魔法陣の強化依頼なんて。
隅から隅まで知り尽くしているから強化する箇所の特定も簡単だったし。
知識もあの時よりあるからAランクまでなら結界で弾けるし。
Sランクも出来るのだけど。あれは魔力をかなり消費するのよね。
おじ様はビックリしているようだったけど、私が描いたって知らなかったのね。
軍関係の方の中でも私が描いたのを知っているのは一握りだし。
まぁ、考えても仕方ないわね。
ゲーハさんはあの人が誰なのか知っているのかしら。
後で聞いてみようかな。
なんか名前を知らないのも気味が悪いわよね。
考え事してたらもうお店に着いちゃった。
「よぉーっっしっ! いっぱい食べよう!」
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