第3話 公衆用浄化魔法陣の陣正
それは、天気のいい晴れの日だった。
なんだか、外が騒がしい。
入ってきた女の子が怪訝な顔をしてやってきた。
「あっ、本返しに来たんですけど」
「ありがとうございます! なんだか、外が騒がしい様ですけど、何かありましたか?」
「なんか公衆用のトイレの浄化魔法陣が作動してないみたいで、異様な臭いを発しているんですよ!」
トイレは基本的に浄化魔法陣で浄化して綺麗にしている。
それが公衆用ともなると大規模魔法陣なので、古代陣の類になるのだ。
うーん。司書としての仕事もしなきゃいけないけど、陣正として働かないとという使命感が。
ゲーハさんに言うと角が立つわよねぇ。
今はゲーハさんいないし、ちょっと文字魔法陣で『直ぐに戻りますのでお待ちください』と表示してちょっと席を空ける。
「私が行ってくるわ。そこの公衆用トイレよね?」
「そうです!」
図書館を出て広場の方へ向かう。
段々と臭いがしてきた。
公衆用トイレの周りには少し人が集まっている。
「どうしてだ? 今までこんなこと無かっただろう?」
「それが、私にもわからなくて」
なにやら原因が分からないらしい。
役人だろうか。
「すみません。役人の方ですか?」
「あぁ。そうです! この公衆用トイレの管理の担当なんですけどね。これまでこんなこと無かったんですよ。急に浄化できなくなるなんて」
「私に魔法陣、見せていただけませんか!?」
そういいながら私は陣正士であることの証明書を提出する。
それを見て役人の人が驚いた。
「えっ!? 司書官の方ですよね?」
小声で話してくれた。ありがたい。
「はい。陣正士の件は内密にして頂けますか? 魔法陣、見せて頂いても?」
「はい! こちらです!」
公衆トイレから少し離れたところに地下への入口がある。
そこを開けると凄い匂いが立ち込めていた。
「うっ。これは緊急で対処が必要ですね」
「うえっ。そうですね」
ハンカチで鼻を塞いで階段をおりていく。
奥へ進むにつれて臭いは酷くなる。
だか、臭いだけで実際には溜めてあるのは上なのだ。
その下に魔法陣が描かれているという訳。
魔法陣の下にたどり着いた。
何やら作動してないみたいだ。
前回の転移魔法陣の事がよぎる。
転移魔法陣の改竄に続いてトイレの浄化魔法陣の改竄?
でも、なんの意味が。
よく観察して魔法陣を見てみる。
所々、掠れている。
これは……。
「これは、魔法陣の魔力線に含まれている魔力が全部魔素化してしまっていますね。だから発動していないみたいです」
「はぁ。それはどういう?」
「魔法陣は魔力線の魔力を軌道の時に使用するのですが、魔力線の魔力が空気中の魔素に帰ってしまっているんです。その状態を魔化した状態といいます。そうなると、魔法陣が発動しない」
「なるほど、陣正出来ますか?」
自分の持っている魔力液のストックを思い浮かべながら間に合うか計算する。
「恐らくは、間に合うかと」
「では、お願いします」
「はい。少し時間がかかります。戻っていていいですよ」
「すみません!」
そういうと一目散に走っていった。
清々しいくらいの逃げっぷりである。
「それじゃ、やりましょうか!」
魔力液を取り出し、魔法陣を上書きしていく。
全く同じようになぞっていく。
ちゃんとなぞらないと作動しなくなってしまうために、注意が必要なのだ。
かなり大きな魔法陣の為、時間がかかる。
少し額に汗が滲む。
しかも、この臭いだ。
段々と気分が悪くなってきたが、もう少しで終わる。
これで、最後。
魔法陣が魔力線で繋がると青白い光を放ち、浄化魔法が作動した。
臭いは綺麗さっぱりなくなり、清潔なトイレを取り戻した。
「ふぅ。クンックンッ」
自分の服が凄い匂いだ。
自分の魔力で魔法陣を描き、発動させる。
服がキラキラと光を放つ。
そして、臭いも汚れも、汗のあとも全て無くなった。
「さっ、終わりね」
出口に向かう。
外が何やら騒がしい。
どうしたんだろう。
外に出ると、歓声が上がった。
「おぉぉぉ! 凄い! 生きてた!」
「あんた凄いな! ありがとう!」
「すごい臭いだったのよ! ありがとう!」
「君は救世主だ!」
なんだか、街の人と役人に凄く感謝されてしまった。
何とかできてよかった。
あっ、早く戻らないと。
小走りで図書館へ戻る。
入口を潜り、カウンターに行くと二人の利用者が待っていた。
「あっ! すみませんでした。お待たせしました。ご返却ですか?」
本を差し出してきたので受け取る。
「えぇ。お願いね。フランソワといいます」
「はい! フランソワさんで、掃除の魔法書っと。はい! ありがとうございます!」
「あなた、外の騒ぎは何かわかるかしら?」
「はい! 公衆トイレは正常に治ったみたいですよ?」
私がやったとは敢えて言わない。
別に手柄をひけらかす気はないから。
少しは言って感謝された方がいいのかな?
でも、なんか自分から言うのは抵抗があるわ。
「あら、そうなの? 良かったわぁ。凄い臭いだったから。ふふふっ。それじゃあ、ご苦労様だったわね」
手を軽く上げて私に手を振ってくれた。
深々と礼をする。
次の人も返却だけで、なんとかすぐに処理をできた。よかった。
「利用者を待たせてはダメじゃないか!」
あらら。見られてたみたいね。
「はい。すみません。所要でした」
「気をつけたまえ!」
はぁ。怒られなきゃ行けないのは嫌ね。
そんなこと言っても仕方が無いのだけれど。
「はい。すみませんでした」
「あんまり酷いとクビにするよ?」
「はい。すみません」
ホント、嫌になる。
なんだか、嫌な気分。
こんな時は夜の街へ行きましょうか。
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