第7話 防衛大臣

「こんな所にワイバーンが出るなんて何にも情報を聞いてないぞ!?」


 兵士が慌てている。

 そんな兵士に教えてあげたいことが。


「ねぇ、兵士さん? 防衛用の魔法陣の事で言っておきたいことがあるわ」


「な、なんだ!?」


「今は賊が入ってきた結界の穴がまだ空いているわ。早く塞がないとそこからワイバーンが入ってしまったら……」


「そ、それは一大事だ!」


 慌ただしく扉を開けて部屋の外に出ていった。

 どうにか魔法陣の間に行ければ良いのだけど。

 それには誰かの協力が必要なのよねぇ。


 あそこにはセキュリティ魔法陣があると言うことは必ず履歴が取られているはず。

 それを見て、おじ様より後に入った人が必ずいるはず。


 それが分かれば、首謀者が分かってくるはず。

 このような事態が起きて自分が得をする人。

 逆に今の事態が損をする人は?


 損をするのは防衛大臣よね。

 王都を守らなきゃいけないのに守れていないのだから。

 得をするのは?


「君はもう下がりたまえ! 一体誰を捕らえたと言うんだ!? 今は防衛用魔法陣の陣正が急務だぞ!?」


 勢いよく開いた扉。

 そこに立っていたのはあの時のおじ様だった。


「あら、おじ様。またお会いできて嬉しいわ」


 おじ様は「はぁ」と頭に手を当ててため息をついた。そして、その隙間から見えるおじ様の目は怒りに満ちていた。


 まぁ、こわい顔。

 あの温厚なおじ様をこんなに怒らせるなんてね。罪な人もいたものだわ。


「申し訳ありません。アヤメさん。今出しますね」


「はっ? その……この人は犯罪者では?」


 兵士が戸惑ったように言う。

 そりゃそうよね。

 急に外に出していいなんて普通に考えたらおかしいもの。


「ガイル! 誰にこの人を連行しろと言われたんだ!?」


「はっ! ローヤカバ前防衛大臣です!」


 また頭を抱えているおじ様。

 なんか面倒なことになってるみたいね。


「なんで、前のつく大臣の指示で重要人物を捕まえているんだ!? 分かっているのか!? この方がどんなに凄い方か!?」


「えぇっ!? わ、わかりません!」


 そりゃそうよ。おじ様はきっと私のことを根掘り葉掘り調べたのね。いけない人。


「このお方は、この国で唯一の特級陣正士であらせられるぞ?」


「えぇ!?」


「エヘッ」


 そうなのよねぇ。

 私しか特級陣正士はいないの。

 古代陣の法則を見つけたのは私。


 そして、解読出来るのも私しかいないのよね。


 現代陣の陣正も私の右に出る人は居ないんじゃないかしら。

 私、常に勉強して知識を伸ばしてるから誰にも負けないわ。


「尚更怪しいでは無いか!? コヤツが国を裏切ったのであろう? 知っていたということは、バッカス防衛大臣はグルですな!?」


 何故そうなる。

 でも、そういう事か。

 そういうシナリオにしたいのね。


 なるほど。

 自分の取られたポストに再び着きたいが為におじ様を引きずり下ろそうと言うのね。


 でも、そうはさせないわ。


「おじ様? 先に防衛用魔法陣の陣正を急いだ方がいいんじゃない?」


「そうですな。行きましょう!」


 牢屋の鍵を開けて自由の身にしてくれた。

 素敵、おじ様。


「そんな方とは知らず、すまなかった!」


 兵士が謝ってきた。

 いいわよ。

 あなたは、あなたの納得できるように動けばいいじゃない?


「許してあげる。でも、もう納得できないことはしない事ね?」


「あぁ。そうだな」


「何をしている! おい! ガイル! 捕らえろ!」


 兵士に前防衛大臣が私を捕まえるように言う。

 首を振るガイルさん。


「自分には出来ません」


「なぜだ!?」


「あなたは、防衛大臣では無いからです。今この場で一番権限が高いのはバッカス防衛大臣だからです。あなたに、なんの権限がおありで?」


「ぐぅぅぅ!」


 部屋から出ていった。

 どこに行くんだろう?


「俺は不正をしないか見届けるからな!」


「あっ、ローヤカバさん、あなたのお抱えの陣正士も連れてきた方が良いですよ!?」


 私はそうアトバイスをする。

 すると、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「そんなの分かってる! 見てろよ!? 何が特級陣正士だ!」


 地団駄を踏んで部屋から出ていった。

 不思議そうに見てきたのは兵士。


「なんで、わざわざあんな事言ったんだ? 他の陣正士が来たら、なんかあるのか?」


「ふふふっ。それは、私の予想が当たっていたらって言う感じだから、お楽しみ!」


 口に人差し指を当ててウインクする。

 仄かに兵士の頬がピンクになった。


「それでは、アヤメさん行きましょう。迅速に陣正して頂きたい」


「はい。見てみれば一目瞭然だと思いますから。大丈夫ですよ。すぐに直します」


 自信満々でいう私を見てなんだかホッとした様子のおじ様。

 そんなに私を信用してくれているなんてなんだか嬉しいわね。


 下に下っていく。

 少し歩くと、魔法陣の間に着いた。


 そこで待っていたのは、ローヤカバさんと。


「キサマ! 捕まったはずじゃ!?」


 ゲーハさんであった。

 テカテカコンビである。


 やっぱりねぇ。

 そうじゃないかと思ったのよねぇ。


 司書官をしていると自然と魔法陣と触れ合うので、陣正という職業に興味を持ち、そしてその職になる人が多い。

 腕前は見たことがないけど、ゲーハさんも現代陣であれば陣正できるんでしょうね。


「解放されました。だって、無実ですから!」

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